新型コロナウイルスの流行が続いているが、実際にどれだけの人が感染しているのか――。感染歴を調べられる抗体検査に、独自に取り組む医療機関が国内で出てきた。検査数はまだ少ないが、自治体が把握する感染者数よりも大幅に感染が広がっている可能性を示唆するデータもある。ただ、検査精度などの課題は多く、結果の数字をうのみにできないようだ。

 大阪の一般市民の1%程度が、新型コロナに対する抗体を持つ。大阪市立大は1日、こう推察する研究結果を発表した。神戸市立医療センター中央市民病院も2日、3月31日~4月7日に一般外来を受診した患者1千人の抗体を調べ、33人が陽性(3%)だったと発表した。

 抗体検査は、ウイルスに感染した後に血液中にできる抗体を調べる。過去に感染したかどうかもわかり、いま感染しているかを調べるPCR検査とは、使う目的が異なる。抗体検査の簡易キットは採血から15分ほどですみ、特殊な装置もいらない。国内のメーカーが販売していて、東京都内でも複数のクリニックが導入している。

 千駄ケ谷インターナショナルクリニック(東京都渋谷区)は、家族に感染者がいたり海外から帰国したりした希望者233人を調べた。すると、19人(8%)が陽性だった。無症状の高齢者や、ひどいかぜ症状や味覚喪失があってもPCR検査を受けられなかった人が含まれているという。ナビタスクリニック(東京都立川市)でも、希望者を対象に検査した。医療従事者55人のうち5人が陽性(9%)、それ以外の147人のうち7人が陽性(5%)だった。

 陽性率が「1%」だった大阪市大は、独自に開発したキットを使った。PCR検査で感染が確認された23人と、まだ新型コロナが発生する前の2018年に採取した50人の血液中の抗体の量を比べたうえで、感染の有無を判断する目安を定めるなどし、精度を高めた。そのうえで、4月のある2日間、新型コロナ以外の病気で同大病院を受診した312人の血液を調べ、3人が陽性だった。

 ただし、1%を大阪府の人口に単純にあてはめれば8万8千人。PCR検査で大阪府が把握している感染者約1700人と、50倍も開きがある。

 新型コロナに感染しても無症状や軽い症状で終わる人が多い。厚生労働省の資料によると、PCR検査で陽性になったダイヤモンド・プリンセス号の乗船者約700人の46%は無症状だった。一方、国内のPCR検査は、基本的には入院が必要な患者を対象にしてきた。

 ナビタスクリニックの久住英二理事長は「抗体検査の陽性率はあくまで参考だが、PCR検査で把握できていない無症状の患者がたくさんいる可能性がある」と指摘する。

 一方、これらの結果は、新型コロナと診断されてはいないものの、医療機関を受診した患者に対する調査で、広く一般市民を対象としたものではない。山形大病院検査部の森兼啓太部長は「偏ったグループ内での陽性率は目安程度にしかならない。これらの結果をもって住民の何%が感染しているかは言えない」と指摘する。

 抗体検査は海外でも広がる。米ニューヨーク州では4月下旬、州内で3千人に実施し、陽性が14%との暫定結果が公表された。

 ただ、精度の問題は無視できない。米カリフォルニア大学サンフランシスコ校などのグループは、米国で出回る120以上の抗体検査キットの一部を調べ始め、まず12種類の評価を発表。感染していない場合に「陰性」と正しく出る特異度にばらつきがあり、感染していないのに「陽性」と出る偽陽性が15%以上出た製品もあった。

 抗体は発症からしばらくたってつくられるため、検査時期にも左右される。国立感染症研究所がPCR検査で感染確認された37人の血液で市販の検査キットを試すと、陽性と判定される割合は発症から7~8日で25%、9~12日で52%。13日以上たってからで97%だった。

 日本臨床検査医学会がまとめた抗体検査の「基本的な考え方」では、発症早期に診断に使うことは推奨しないものの、感染歴の確認には「有用であると考えられる」とする。考え方をまとめた委員会の柳原克紀・長崎大教授は「現時点では解釈に注意が必要」としつつ、「全ての検査は完璧ではない。PCR検査などとそれぞれの弱点を補完しあって、感染実態の把握などに利用していくべきだ」と話す。(後藤一也、市野塊、瀬川茂子)