新型コロナウイルスの感染拡大を受け、PCR検査の調整などに当たる保健所への過重な負担が続く。保健所設置数は1990年代からほぼ半減し、感染症に対応する専門職の保健師も減少傾向にある。識者は「パンデミック(世界的流行)に対応できる体制ではなかった」と指摘する。
保健所負担軽減にICT 業務集中「通常の10倍」―新型コロナ
さいたま市の女性会社員(31)は4月中旬に微熱が1週間続いた。ぜんそくの持病があり、かかりつけ医が保健所に問い合わせたがPCR検査は断られた。高齢の祖母と同居しており、自室から出ずに生活。熱が下がった今も新型コロナだったのか分からないままだ。
全国保健所長会(東京)の内田勝彦会長は「相談者数に対して検査体制が整わず、保健所が調整せざるを得ない特異な状況にある」と説明する。厚生労働省が「37.5度の発熱が4日以上続く」とした受診の目安を削除し、保健所に設置された相談センターへの相談増も見込まれる。
94年の地域保健法制定に伴い保健所の統廃合が全国で進み、母子保健など住民に身近なサービスは市町村で、広域的な専門業務は保健所で担うようになった。設置数は同年の847カ所から、2020年には469カ所と4割強減った。この間、市町村勤務の保健師が約2倍になったのに対し、保健所勤務の保健師は7000~8000人前後で推移してきた。
人口約83万人の堺市では、感染症対策に当たる保健所の保健師は8人のみ。相談センターで緊急性が高いと判断された電話は、深夜や明け方でも転送される。担当者は「2月下旬からは寝ている間も携帯電話を手放せない。国の制度変更で業務も急増している」と話す。
保健所の統廃合について、尾島俊之浜松医大教授(公衆衛生学)は「広い視野で仕事を進めやすくなった半面、感染症に対応する専門職は減少し、個々の患者への対応力は落ちた」と分析。「パンデミックを想定した訓練も行われてきたが、十分な体制にはなっていなかった」と語った。