「量子暗号通信」と呼ばれる次世代の暗号技術の世界展開を目指して、大手企業や大学などが参加する大がかりな開発プロジェクトが、今月始まることが分かりました。

インターネットなどではさまざまなデータが暗号化されて通信されていますが、計算能力がスーパーコンピューターをはるかに超える量子コンピューターが本格的に使われると今の暗号は簡単に解読されるおそれがあることから、次世代の暗号技術「量子暗号通信」の開発が世界的に加速しています。

関係者によりますと、東芝やNEC、三菱電機のほか、東京大学、国の情報通信研究機構といった、12の企業や大学などが参加する量子暗号通信の大がかりな開発プロジェクトが、今月始まることが分かりました。

向こう5年間でそれぞれが強みのある技術を持ち寄り、暗号を破られずに通信できる距離を延ばし、高速・大容量の無線通信 5Gを使った場合も解読されることなく、情報のやり取りを可能にする技術などの開発を共同で進めるということです。

この分野では、保有する特許の数で、東芝が世界1位、NECが2位となるなど、日本企業が存在感を示しています。

量子暗号通信は、防衛や金融など安全保障にもつながる機密性の高い情報を守るために、世界的に需要が伸びると見込まれているだけに、今回のプロジェクトで競争力を高めて世界をリードできるかが注目されそうです。

普及すれば2兆円規模の市場にも

量子暗号通信は、量子コンピューターの普及に伴って欠かせない技術になるとみられています。

量子コンピューターはアメリカのIBMやグーグルが研究を進めていて、去年10月、グーグルなどの研究チームが、これまでのスーパーコンピューターで1万年かかるとされる計算問題を3分20秒で終わらせた、とする論文を発表しました。

こうした計算能力が極めて高い量子コンピューターが本格的に使われるようになった時に、重要な情報を安全にやり取りできるようにするのが量子暗号通信に期待される役割です。

具体的には、暗号化した情報とその解読に必要な「鍵」を、微弱な光に乗せてやり取りする仕組みで、不正に解読しようとすると光の状態が変化するため「鍵」として使えなくなり、絶対に解読されない技術だとされています。

この分野に強みを持つ東芝は、5年後には先進国を中心に量子暗号通信の活用が始まり2035年には世界的に広く普及して、2兆円規模の市場になると見込んでいます。