[20日 ロイター] – 南シナ海をめぐる米中間の緊張が、ソーシャルメディア上で「言葉の戦争」を引き起こしている。
中国が東南アジア地域で米に対抗する超大国として台頭する中、アナリストらは米国の戦略に変化が現れている、と捉えている。
先週、米国政府が南シナ海における中国の海洋領有権の主張をはっきりと退け、一段と強い態度を示したことを受けて、東南アジア諸国にある米国の各大使館は、かつてないほどのペースで中国政府の姿勢を批判する論説や声明を発表している。
中国側も激しい反応を見せ、「(東南アジア地域において)人々に誤解を与えるよう虚偽の文言を用いて中国の名誉を傷つけている」と米国政府を批判した。
<いまや戦場、長いゲームに>
アルベルト・デル・ロザリオ戦略国際関係研究所(フィリピン)のアナリスト、レナト・デ・カストロ氏はロイターとの電話インタビューのなかで、「この地域はいまや戦場になっている」と語った。「長いゲームになるだろう」
1週間前、マイク・ポンペオ米国務長官は、豊かなエネルギー資源が期待される南シナ海の約90%について中国政府が領有権を主張していることについて、「完全に違法」であり、中国政府が「海洋帝国をめざしている」と批判した。
タイ、マレーシア、フィリピン、カンボジアに置かれた米国大使館はこれを受けて、フェイスブックへの投稿や地元報道メディアへの寄稿を通じて、中国政府の行動は他国の主権を侵害するパターンを繰り返していると述べた。
駐タイ米国大使は、昨夏の干ばつの際、中国国内のダムが放流しなかったことで、東南アジア地域を流れるメコン川の流量が失われたと批判している。
ヤンゴンに置かれた在ミャンマー米国大使館は、南シナ海の状況と「中国によるミャンマーへの干渉」は類似しているとして、いわゆる「債務の罠」になりかねない投資や、婚姻を名目としたミャンマー女性の中国への拉致、ミャンマーへの薬物流入を指摘した。
こうした動きに対し、駐タイ中国大使はすばやく反撃し、米国政府は「中国と他の南シナ海沿岸諸国のあいだに不和の種をまこうとしている」と批判した。
在ミャンマー中国大使館はフェイスブックへの投稿のなかで米国について「ダーティ(汚い)」という表現を2回使い、米国の在外機関が中国を封じ込めるために「非常に不快な行動」をとっており、「利己的かつ偽善的で、軽蔑すべき醜い顔」を見せている、と非難した。
こうした声明に対して域内のソーシャルメディアで数千件ものコメントが寄せられている。多くは中国を批判する内容だが、米中両国の動機も疑問視する投稿もある。
在フィリピン米国大使館によるフェイスブック投稿に対し、シェリー・オカンポと名乗るユーザーは、「米国が法の求める行動を取ってくれてありがたい」とコメントした。
在マレーシア米国大使館のページに書き込まれた「帝国主義ヤンキーは国に帰れ!」との匿名の投稿に対し、米国の外交当局者は、「南シナ海で中国が傍若無人に振る舞っても構わないということか」と反論した。
<米国の新しい外交戦略>
中国外務省の汪文斌報道官は、北京での記者会見において、「中国を攻撃・非難するコメントを先に公表したのは米国」であり、中国の外交官はそれに対して説明と反論を示したものであると述べた。
中国に対して組織的に行われたと思われるソーシャルメディア上での攻勢について、米国務省にもコメントを求めたが、今のところ回答は得られていない。
アナリストらによれば、こうした「言葉による戦争」は、東南アジア地域において米国が展開している新しい外交戦略の特徴だという。
東南アジア地域に対する中国の影響力に関する著作を準備中のセバスチャン・ストランジオ氏によれば、東南アジア諸国には中国政府の動きを「主権に対する明らかな脅威」と懸念する見方があり、米国の新戦略にはそうした懸念と南シナ海も問題を結びつけようという狙いがある、と語る。
一方、同氏は中国側の反応について、同国で人気がある好戦的なアクション映画「戦狼(ウルフ・オブ・ウォー)」のような外交だと指摘。新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)の中、中国側の論調はますますナショナリズム色を強めているとみる。
最近南、南シナ海では、中国がフィリピンやベトナムなど規模の小さなライバルを相手に歴史的な経緯を根拠として領有権を争っている海域で米中双方の海軍が同時に演習を行うなど、緊張がますます鮮明になっている。
ラジャラトナム国際研究院(シンガポール)の海上安全保障専門家コリン・コー氏は、「中国としては、米国が東南アジアにおける世論を転換させることで明らかな利益を得るのを許すわけにはいかない」と語る。
「東南アジア諸国政府の少なくとも一部は、公然とは言えない形で、密かにポンペオ米国務長官の最近の声明を歓迎している。それによって、係争中の海域における中国の動きに抵抗しようという勇気を得ていても不思議はない」
(翻訳:エァクレーレン)