5日、レバノンの首都ベイルートの爆発現場を訪れたアウン大統領(中央)(AFP時事)
5日、レバノンの首都ベイルートの爆発現場を訪れたアウン大統領(中央)(AFP時事)

 【カイロ時事】レバノンの首都ベイルートでの大規模爆発で、政府の過失による「人災」批判が収まらない。政府は保管中の硝酸アンモニウムへの引火が原因とする見方に傾くが、起爆する危険性を認識しながら対策を怠った疑いが濃厚なためだ。市民の不満が強まれば、政情不安と財政危機にあえぐレバノンの混迷が一段と深まりそうだ。

〔写真特集〕レバノン首都で大爆発

 今回の爆発では、最初に火災か爆発の煙が上がった後、2度目に起きた爆発の威力がすさまじく、爆風と衝撃に襲われたベイルートの広範囲に甚大な被害が及んだ。地元メディアによると、6日までの死者は137人、負傷者は5000人以上に達した。

 トランプ米大統領は4日、「ある種の爆弾」による攻撃の可能性を指摘したが、その後、発言を事実上撤回。レバノンと敵対状態にあるイスラエルの当局者も関与を否定している。当初は交流サイト(SNS)などで何者かの「意図的な攻撃」を疑う臆測が出ていたものの、今では化学物質の爆発説が有力になりつつある。

 こうした中、2014年ごろから約6年間、爆薬材料になる硝酸アンモニウムを2750トンも繁華街や住宅密集地に近い場所でずさんに管理していた当局に非難が集中。地元メディアは、硝酸アンモニウムの倉庫が花火保管庫と隣接して危険だとして、税関当局者が6回も司法当局に国外搬送など処分の必要性を訴えたのに、対策が取られなかったと報じた。

 米紙ニューヨーク・タイムズによれば、硝酸アンモニウムは13年にロシアからモザンビークに向かう船舶に積載されたが、寄港したレバノンで船舶ごと差し押さえられた。14年に当局が保管場所に移した後、放置されていたという。

 レバノンは昨年10月に反政府デモが広がり、ハリリ首相が辞任。今年1月にディアブ政権が発足したが、長年の汚職や放漫財政のつけで3月にデフォルト(債務不履行)に陥り、政府の無策や怠慢に市民の不信感が根強い。ベイルートの広告会社に勤めるラワド・ラヘルさん(30)は「爆発の原因は政府の過失。だが、責任者が本当に処罰されるか分からない。再建のために政府の全てで変革が必要」と憤る。

 アウン大統領は5日、「責任者を特定し最も厳しい処罰を加えるため、速やかに調査を進める」と強調した。ただ、現地メディアは「惨事ばかり招く腐敗した政府の調査など信用できない」と酷評する地元議員の話を伝えている。