新型コロナウイルス感染症の診断には、PCR検査だけでなく、抗原検査も使える。抗原検査はPCR検査に比べて早く結果がわかる上、「簡易キット」なら手軽に検査できる。だが、実際にはあまり使われていない。検査の拡充が求められている中、なぜ広がらないのか。
30分で結果判明
抗原検査はウイルスに特徴的なたんぱく質をみつける検査で、インフルエンザの診断でも使われている。
新型コロナでは、鼻の奥のぬぐい液を調べる手のひらサイズの「簡易キット」と、専用の装置を使い、唾液(だえき)でも調べられる「定量検査」がある。PCR検査の場合、結果が出るまでに数時間はかかるが、抗原検査なら30分ほどですむ。費用も3分の1ほどだ。
3~4月に新型コロナの感染が拡大した際は、「症状があってもPCR検査が受けられない」「海外に比べて件数が少ない」などの批判が相次いだ。厚生労働省は5月に富士レビオの簡易キットを、6月には同社の定量検査用の試薬を承認した。8月11日には、デンカの簡易キットも承認した。
「偽陰性」が出やすい?
厚労省によると、8月初めの時点での検査能力は、PCR検査が約5万2千件。抗原検査は簡易キットが約2万6千件、定量検査は約8千件だという。だが自治体により検査数の発表方法が異なるため、実際にどのくらい検査が行われているのかははっきりしない。
検査数が5500件を超える日もある東京都の場合、7月の抗原検査の件数は最多でも600件ほどだった。総検査数に占める割合は増えているが、同月末時点で約1割にとどまる。
抗原検査が広がらない理由の一つが、感染している人を正しく陽性と判定できる「感度」が低いことだ。富士レビオの簡易キットの場合、行政検査で使われた検体でのPCR検査との陽性一致率は66・7%。唾液を使った定量検査だと、厚労省の審議会に出された資料には75・7%とある。
PCR検査の感度も100%ではないが、抗原検査の方が、本当は感染しているのに陰性と判定される「偽陰性」がより出やすい。
スクリーニング目的はNG
一方で、感染していない人を正しく陰性と判定できる「特異度」は、PCRとほぼ同じだ。そのため、簡易キットが使えるようになった当初は、陽性だと一発で確定したが、陰性だとPCR検査による「二重の確認」が必要だった。こうした手間が、敬遠される要因でもあった。
その後、発症から2~9日ならウイルスの量が多く、PCR検査の結果とよく一致することがわかり、6月中旬からは簡易キットで陰性でも一発確定となった。だがそのころには国内での感染者数が減り、PCR検査の能力も増えたため、感度が劣る抗原検査が使われる場は限られた。発症から1日の場合と10日目以降は、依然として「二重の確認」が必要だ。
7月以降、再び感染者数は増え、検査の必要性は増しているものの、偽陰性への懸念は残る。
日本臨床検査医学会など3学会は、症状がない人を検査する場合の注意点をまとめ、7月末に公表した。抗原検査の簡易キットについて、無症状の人の中から感染者を探すスクリーニング目的で使うことは「推奨されない」とした。
提言をまとめた同学会の柳原克紀・長崎大教授は「PCR検査が受けられる状況なら、そちらを受けた方が好ましい。ただ、抗原検査でも十分なウイルス量があれば正しい結果が得られるので、結果が早く出るなど特性を理解した使い方が広がることに期待している」と話す。
新たな「武器」に
実際、短時間で結果がわかるという利点をいかし、7月末からは水際対策として空港検疫でも唾液を使った定量検査がはじまった。現在、1日1千~2千件ほどの検査が行われている。
また、東京都は、新型コロナ疑いの救急患者を「積極的に」あるいは「必ず」受け入れる計103の医療機関を6月下旬に指定したが、抗原検査の簡易キットが積極的に使われているという。
都医師会の新井悟理事は「救急で搬送された人が検査してみたら新型コロナに感染していたという例はある。抗原検査だけですべて済むわけではないが、迅速性という点で、抗原検査という武器があると心強い」と評価する。(野口憲太)