大阪市民は再び政令市の廃止に「ノー」を突きつけた。1日に投開票された「大阪都構想」を巡る2度目の住民投票。5年前と同じく反対が賛成を上回り、大阪市の存続が決まった。大阪維新の会が結党時から党最大の公約として掲げ、市民を二分した論争は10年越しで決着した。
松井一郎・大阪市長(大阪維新の会代表)と吉村洋文・大阪府知事(同代表代行)は1日午後11時から、公明党の佐藤茂樹府本部代表らとともに大阪市北区のホテルで記者会見。一礼して着席し、松井氏は「全ての市民の皆さんにお礼を申し上げたい」と切り出した。「皆さんが悩みに悩む問題を提起できたことは政治家冥利に尽きる。結果は出たので、(残る市長任期で)万博成功に向けて全力で傾注したい。引き続き大阪を愛してほしい」と淡々とした表情で語った。敗因を問われると「大きな戦いを2度挑み、2度負けたので力不足に尽きる」と言い切った。政界引退を表明した一方で、笑顔もみせ「やることはやった。後悔もないし、できることもない。心は晴れている」とすっきりとした雰囲気も漂わせた。
2015年の前回住民投票は「維新」対「反維新」の構図だったが、今回は賛成に転じた公明と維新がタッグを組んで活動を展開した。佐藤氏は「党として厳粛に受け止めたい」と硬い表情。「民意を尊重して大阪の発展をゼロベースで検討していきたい。これから大事なのはしこりを残さないことだ」とも述べた。
吉村氏はうっすらと目に涙を浮かべ、「ツートップでやってきたが力不足だった。僕自身が大阪都構想に再挑戦することはもうありません」と話した。23年4月までの知事任期は「まっとうする」としたうえで、その後については「満了前に判断したい」と厳しい表情を浮かべた。
維新は吉村氏が新型コロナウイルス対策の指揮にあたっていることから、10月12日の告示までは大規模な街頭演説を控えてきた。その分、19年4月の知事・大阪市長のダブル選を含む統一地方選で圧勝の原動力となった所属議員らによる「どぶ板」活動は健在で、告示前から昼夜問わず駅前でのビラ配布やポスティングなどを徹底した。告示後は街頭演説に力点を置き、15年に反対が上回った平野区や生野区など市南部の区を中心に活動。「まちかど説明会」と題して都構想のメリットを強調し、聴衆の質問にその場で答えるなど丁寧な説明を心がけたが、小差で及ばなかった。
公明が都構想への姿勢を180度転換したことについて、支持母体の創価学会員の不満は根強かった。次期衆院選では従来通り自民党との選挙協力態勢が敷かれるが、テレビ討論などでは語気を強めて自民市議らを追及する場面も見られ、しこりは残りそうだ。【芝村侑美、田畠広景】
反対派「3度目あってはならぬ」
大阪都構想に反対を訴えてきた自民、共産、立憲民主の3党は大阪市内で相次いで記者会見した。
自民党は1日午後11時ごろから中央区の大阪府連事務所で会見した。府連会長の大塚高司衆院議員は「大阪市廃止を阻止できて安堵(あんど)している。市民から『より良い元気な大阪にしてほしい』との思いがひしひしと伝わった」と胸の内を明かし、「(住民投票を通じて)市民の感情が分断された。一つにするため鋭意努力を重ねたい」と厳しい表情で述べた。大阪市議団の北野妙子幹事長は涙を浮かべながら「テレビに反対多数のテロップが出た時には信じられなかった。否決され、心から感謝したい。このコロナ禍で住民投票が強行されたことは残念。もう3度目はあってはならない」と語った。
共産党は北区に設けた会場で会見。大阪市議団の山中智子団長は都構想の議論を振り返り「失われた10年だった。これでノーサイド。わだかまりを捨てて(都構想に)賛成した方も一緒になって良い大阪を作りたい」と語った。中央区の府連事務所で会見した立憲民主党の府連幹事長、森山浩行衆院議員は「大阪市の歴史がこれからも続くことを素直に喜び合いたい。対立と分断から、対話と協調の街づくりへと転換を図っていくべきだ」と述べた。
反対派で中心的な役割を果たした自民党は、一部の府議が賛成を公言し、制度案を決める法定協議会でも賛成に回るなど、府連内の意見集約にてこずった。5年前の前回は自民、公明、共産、民主党(当時)で連携したのに対し、今回は単独行動を取った。府連関係者は「野合批判を避け、自民支持層の反対票を増やすため」と打ち明ける。
反対派では、連合大阪が支援する政治団体「リアルオーサカ」も、子育て世代や防災上の懸念がある新淀川区の住民を狙ってインターネット広告を配信するなどの運動を展開。次期衆院選で大阪5区(大阪市此花区や淀川区など)に候補者を擁立する「れいわ新選組」も山本太郎代表が終盤に大阪入りし、連日、ゲリラ的に街頭で反対を訴えた。【石川将来、野田樹、鶴見泰寿、園部仁史】