[ニューヨーク 16日 ロイター BREAKINGVIEWS] – バイオ医薬品大手の米モデルナMRNA.Oが非常に有効とみられる新型コロナウイルス感染症ワクチンの臨床試験(治験)の暫定結果を示すことに成功した。これはもちろん世界中の人にとっての勝利だが、特に低所得国には朗報と言える。今回、モデルナが成果をもたらす前には、米製薬大手・ファイザーPFE.Nなどが開発中のワクチン候補も高い効果を示した。両社ともに実用化に動ける公算が強まった。これでワクチンの供給が増えるほど、新型コロナでひどく痛めつけられた途上国が使用できる時期が早まり、経済成長の回復も前倒しされる。
モデルナの成功は目を見張るものだ。ワクチン候補の有効性は94.5%に達した。恐らく同じぐらい大事なのは、副作用が軽めで済みそうなことで、試験で重症者となった11人は全員、偽薬を投与されていた。
同社によると、保存期間は通常の冷蔵庫なら最大30日、冷凍庫なら半年。ファイザーのワクチン候補は超低温での保存が必要なため、複雑な配布方法が求められる。
ファイザー、モデルナの試験が立て続けに好結果となったことから、「次」への期待も高まる。世界保健機関(WHO)のデータでは現在、ほかに46種類のワクチン候補が治験段階にある。そのほとんどは新型コロナウイルスの同じ部分を標的としている以上、恐らくもっと成功例が出てきてもおかしくない。
さらに新型コロナウイルス感染症の急拡大を受け、多くの治験は想定よりも早く終了するかもしれない。結果的に、近いうちにワクチンが大量に出回る可能性があるのではないか。
患者1人について2回の接種が必要になるかもしれないが、モデルナだけでも、来年中に5億─10億回分を生産する見通し。ファイザー、同社と組むビオンテック22UAy.DEは、来年最大で13億回分を生産すると見込んでおり、他のほぼ全ての大手製薬会社も大規模生産態勢に入っている。
米国政府だけでも既に、アストラゼネカAZN.Lやジョンソン・エンド・ジョンソンJNJ.Nなどに計6億回分を発注した。
ワクチンがあり余るほど供給され、しかもそれが簡単に配布できる製品であるなら、途上国は大いに助かる。先進国でワクチンの余剰が発生すれば、途上国が購入できる、あるいは贈与される分が増えるだろう。
医療設備が不足し、適切な公衆衛生に充てる予算が限られる国の一部は、資源輸出国でもあり、経済悪化に伴って輸出品の価格は下がっている。そうした途上国の多くは外国資本にも依存しており、投資家が恐慌を来せば資金が入ってこない。これらの材料を全て勘案した上で、ワクチンが幅広く行き渡ると想定すれば、新興国市場から大きなリスク要因が取り除かれることになる。
●背景となるニュース
*バイオ医薬品大手の米モデルナは16日、新型コロナウイルス感染症のワクチン候補について、後期大規模臨床試験で94.5%の効果が確認されたとする暫定結果を公表した。米製薬大手ファイザーと独ビオンテックが開発中の新型コロナワクチン候補は9日の発表で、90%を超える有効性が示された。
*モデルナによると、重症者11人は全て偽薬の投与を受けていた。ワクチンの副作用は軽めのもよう。
*このワクチンはマイナス20度で最大半年間の保存が可能。通常の冷蔵庫の温度である2-8度であれば保存期間は最大30日。マイナス70度での保存が必要なファイザーのワクチンよりも配布が容易になる。
*モデルナは来年、5億-10億回分を生産したい意向。
(筆者は「Reuters Breakingviews」のコラムニストです。本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています)