新型コロナウイルス感染症(COVID19)が世界に広がっている中で、この公衆衛生上の危機をどの国・地域が最もうまく乗り切るかを予想するのは簡単ではない。
だがブルームバーグは、コロナ禍を最もうまくしのいでいる国を特定するためのデータを算出した。経済や社会に最も痛手が少ない形でコロナに最も効果的に対応している国はどこだろうか。
ブルームバーグCOVIDレジリエンス(耐性)ランキングは経済規模が2000億ドル(約20兆9100億円)を超える53の国・地域を10の主要指標に基づいて点数化した。その基準は症例数の伸びや全体の致死率、検査能力、ワクチン供給契約の確保状況などだ。国内医療体制の能力、ロックダウン(都市封鎖)などコロナ関連の行動制限が経済にもたらす影響、市民の移動の自由も考慮した。
最もうまく対処している国・地域
ニュージーランドは23日時点でランキングのトップだ。迅速で断固とした措置が奏功した。新型コロナの死者が1人も確認されていなかった3月26日の段階でロックダウンに動き、経済が観光業に大きく依存しているにもかかわらず、国境を封鎖した。政府は早い段階で、ウイルスの「撲滅」を目指すと表明。市中感染抑制に向け検査や接触者追跡、集中的な隔離戦略に資源を投入し、おおむね成功した。
ここ数カ月は市中感染がわずかにとどまり、音楽ライブや大規模なソーシャルイベントも復活した。ワクチンでも2件の供給契約を結んでいる。
ランキング2位は日本だが、異なる道を歩んだ。日本にはロックダウンを強制する法的手段がないが、別の強みを素早く発揮した。過去に結核が流行した日本は保健所制度を維持しており、追跡調査が新型コロナでも迅速に採用された。高いレベルの社会的信頼やコンプライアンス(法令順守)を背景に国民は積極的にマスクを着用し、人混みを避けた。
3位となった台湾の成功は、昨年12月に最初に感染者が確認された中国本土との関係を踏まえればなおさら際立つ。武漢から警戒すべき情報が伝わった台湾は早い段階で入境制限に動いた後、マスクの在庫がある場所や感染者の訪問先リストを示すアプリを導入するなどテクノロジーを中心に据えたアプローチの先駆けとなった。200日余りにわたって市中感染の報告がなく、境界は閉じたまま通常の生活にほぼ戻った。ただ最も開発が進んでいるワクチンについて供給は確保されていない。
Quick Reaction
Top performers took early steps to contain the virus spread
Source: Oxford University’s Stringency Index
トップ10に入った国・地域の多くは、コロナ対応で最も効果的となった戦略の先駆者でありモデル化を行っている。中国湖北省付近で採用された防疫線は国内の他地域に感染が広がるのをほぼ防いだが、こうした措置をはじめとする国境管理は重要な要素だ。中国は大規模な検査を実施し、旅行者に14日間の隔離を課した。ただ医療や追跡調査の体制が整っていない地域で積極的なロックダウンを実施する中国の姿勢は負の側面だ。
10位圏内の北欧3カ国は欧州で国境管理がいかに効果的に行われたかを示す。フィンランドとノルウェーは3月半ば以降、外国人の入国をほとんど認めていない。こうした国々は夏季のバカンスが一因で感染再拡大に見舞われたフランスや英国、イタリアのような状況を回避できた。
一方、韓国の手法に象徴されるように、効果的な検査や追跡調査はトップ10のほぼ全ての国の共通項だ。韓国は感染拡大から数週間以内に国産の診断キットを承認し、ドライブスルー方式の検査拠点を最初に導入した。感染者の足取りをクレジットカード履歴チェックや監視カメラで追う調査員も備えた。2015年の中東呼吸器症候群(MERS)流行で苦労した経験を生かした。
03年の重症急性呼吸器症候群(SARS)感染拡大での経験が東アジアや東南アジア諸国の「記憶に焼き付いており」、今回の対応につながったと、当時ニュージーランド首相を務めていたヘレン・クラーク氏はインタビューで語った。
上位の国・地域の共通点
米国や英国、インドなど世界で最も優れた民主主義国家の一部が後れを取った一方で、中国やベトナムなど全体主義的な国家が新型コロナウイルス抑え込みに成功したことは、民主的な社会がパンデミック(世界的大流行)への対応に適しているのかという疑問を投げ掛ける。
しかし、ブルームバーグCOVID耐性ランキングはその疑問を否定する。トップ10のうち8つは民主的な国・地域だ。悪影響を最小限に抑えて新型コロナを封じ込めることに成功している政府は、市民に命令し服従させる力によってではなく、高い信頼と社会のコンプライアンスを引き出すことによってそれを可能にしているように見受けられる。
市民が当局とその指針を信頼している場合、ロックダウンは不要かもしれない。日本と韓国、そしてある程度においてスウェーデンがこれを示した。ニュージーランドは最初から、コミュニケーションを重視した。同国の4段階の警戒システムは、感染拡大の状況に伴い政府がどのように、またどういう理由で行動するかを国民に明確に理解させた。
公衆衛生インフラへの投資も重要だ。20年より前には多くの場所でその価値が過小評価されていた接触追跡システム、効果的な検査、健康に関する知識の普及が新型コロナ対応で上位にランクされる要因となり、手洗いやマスク着用を社会に定着させる助けとなった。これが、経済に大打撃を与えるロックダウンを回避する鍵になったと、米国立アレルギー感染症研究所(NIAID)のアンソニー・ファウチ所長は指摘している。
メルボルン大学で世界疾病負担(GBD)グループのディレクターを務める アラン・ロペス名誉教授によればまた、社会的結束もこのパンデミックへの対応の成否を分ける要素だった。
「日本や北欧の社会を見ると、不平等がほとんどなく、非常に規律が行き届いていることが分かる」とロペス氏は述べた。「これが、国としてより結束した対応につながり、優れたコロナ対応ができた理由だ」と分析した。
米国のワクチン優位
米国から効果的な対応が見られなかったことが、今回のパンデミックで最も驚くべき展開の1つだった。超大国の米国が感染者数と死者数で世界最多となり、危機への対応は最初から出遅れていた。医療機器および個人防護具(PPE)の不足、検査と追跡システムにおける協調の欠如、マスク着用の政治問題化など不備が目立った。
トランプ米政権はむしろ、治療とワクチンを主に重視した。「ワープ・スピード作戦」と銘打った取り組みの下、ワクチンを開発する製薬会社などに約180億ドルを配分した。一方、国内の各州は危機対応のための資金を求めていた。
この異例な対応が、ブルームバーグのランキングで米国の順位を上げた。感染者と死者数の多さから、この点がなければ米国の順位はさらに11段階下だっただろう。メッセンジャーRNA(mRNA)という技術に基づくワクチンは米国で来月にも緊急使用許可(EUA)を得られる可能性があり、このワクチンの際立った有効性が転換点となるかもしれない。
米国と同じくらい多くのワクチン候補について供給契約を結んでいる国はほかにも少数あるが、デューク・グローバル・ヘルス・イノベーション・センターの研究者らの集計によると、米国は契約済みと仮契約を合わせて26億回分以上と世界で最大量を確保している。ただ、これを全米に配布するという巨大な難題は残っている。
マイクロソフト共同創業者のビル・ゲイツ氏は20日にブルームバーグ・ニューエコノミー・フォーラムで、「米国がやったことで唯一良かったのは、米国の企業ばかりでなく多数の欧州企業も含めて全世界のワクチン開発に対して多くの研究・開発費を出したことだ。これは良かった。世界の役に立った。ほかの点では、米国はある意味で最下位だった」と語った。
カナダもワクチン重視によって順位を上げた。最終試験段階にある5つのワクチン候補について供給契約を結んでおり、人口の何倍もの回数分の量を確保している。欧州連合(EU)は3件の供給契約で最終合意している。
中国もワクチンへのアクセスという点で高いスコアを得ている。ただ、供給契約先は主に国内の製薬会社で、これらの企業は欧米の一部企業に比べるとワクチンの有効性について開示している情報が少ない。超大国の比較では、中国は国内での新型コロナウイルスをほぼ撲滅したが、パンデミック前の国民皆保険の指標で米国に劣る。
全体として、新型コロナワクチンへのアクセスは、ウイルス抑制における他の点で劣っていたとしても、豊かな国、大国の永続的な国の力を反映している。開発途上のより小さな国・地域の多くは国内での臨床試験実施やワクチン製造を請け負うことによって供給契約を確保した。
シンガポールのリー・シェンロン首相は17日にブルームバーグ・ニューエコノミー・フォーラムで、「大国は、場合によっては驚くほどの包括的な措置によって自分たちが第一にワクチンを入手することを確実にした」と指摘。「そのような政治的緊急性は理解できる。大国はある程度自分の言い分を通すのが現実だと思う」と語った。
これから
冬、ワクチン、ウイルスの変異。こうした全てが21年に向けてとその後のパンデミックの行方を不透明にする。それでも、新型コロナとの1年にわたる闘いで、政府も国民もウイルスと感染拡大を抑える方法、影響を緩和する方法への理解を深めている。
今後数カ月のデータによって、ブルームバーグCOVID耐性ランキングも更新される。
原題:The Best and Worst Places to Be in the Coronavirus Era (抜粋)