菅義偉政権が新型コロナウイルス禍の経済対策の柱と位置付けてきた観光支援事業「Go Toトラベル」に暗雲が漂っている。専門家の指摘を受けて大阪、札幌両市での一時停止に踏み切ったが、感染者数が最多の東京都では継続するなど対応にひずみも見えている。

  官房長官時代から旗振り役だった菅首相は25日の衆院予算委員会で、「Go Toトラベル」が「地域経済を下支えしている」と強調。同事業が感染拡大を助長したとの指摘には反論し、「専門家の提言では、主要な原因とする証拠はないとされている」との認識を示した。

  7月にスタートした同事業は当初除外していた東京発着の旅行も追加したが、11月に入ると全国の新規感染者が急増。専門家による分科会が20日に運用見直しを提言する事態になった。政府は感染拡大地域を目的地とする旅行の新規予約を一時停止する措置を決め、札幌、大阪両市を対象から除外した。

  加藤勝信官房長官によると、「Go To  トラベル」の利用者延べ4000万人のうち、11月25日までの報告で感染が確認されたのは197人だった。

  事業の一時停止について政府は、都道府県知事からの要請を受けて実施する方針だが、東京都の小池百合子知事はこれを疑問視。25日の記者会見で、「全国的な視点から国が判断するのが筋ではないか」と述べるなど都側からの要請は行わない考えを示している。

  都は酒を提供する飲食店への営業時間短縮要請に加え、小池知事が都民に不要不急の外出自粛を求めている。

  一方で専門家からはさらなる見直しを求める声も出ている。政府の分科会は25日、一時停止は感染拡大地域を目的地とする旅行だけでなく、該当する地域からの出発分も除外するよう政府に提言した。尾身茂会長は終了後の記者会見で、感染拡大地域から他の地域に向かう人の流れを作らないことは、「感染症対策上、常識だ」と語った。

感染拡大地域の対策強化
東京都:28日から12月17日まで酒類提供の飲食店に午後10時までの時短営業を要請、都民にはできるだけ不要不急の外出を控えるよう呼び掛け
札幌市:市民の不要不急の外出自粛要請や休業要請など12月11日まで「集中対策期間」を延長
大阪市:北区、中央区の酒類を提供する飲食店などに、27日から12月11日まで、午後9時までの時短営業を要請
名古屋市:繁華街の一部地区を対象に、29日から20日間、午後9時までの時短営業を要請

  菅首相は26日、分科会が「この3週間が極めて重要な時期」としていることに触れ、改めてマスク着用など感染防止策の徹底を求め、「感染拡大をなんとしても乗り越えていきたい」と記者団に語った。都道府県による飲食店への営業時間短縮要請に協力した全店舗を支援する姿勢も強調したが、「Go To  トラベル」の今後の扱いには言及しなかった。

  ただ、同事業と感染拡大を結びつけることには慎重な地方の声もある。福岡市の高島宗一郎市長は19日、「Go Toトラベルと福岡市の感染者数に相関関係はみられませんでした」と自身のブログに記載した。

  野村総合研究所の木内登英エグゼクティブ・エコノミストは「Go Toトラベル」について、「常識的に人が移動すれば感染リスクは高まる」として、政府の見解を否定。現在の感染状況で旅行を促す政策は適切ではなく、「全体的に停止するのが正しい」との見方を示した。

さっぽろテレビ塔。札幌の観光もGoToトラベル一時停止の影響を受ける