【北京時事】世界で最初に新型コロナウイルスの感染が広がった中国でも、ワクチン開発が大詰めを迎えている。既に5種類が臨床試験(治験)の最終段階にあり、一部は年内にも承認される見通しだ。政府は新興国への優先供給を掲げて「ワクチン外交」を積極的に展開するが、承認前から広範な緊急使用に踏み切っており、安全性への懸念もくすぶる。
最終段階に差し掛かっているのは、中国医薬集団(シノファーム)や科興控股生物技術(シノバック・バイオテック)などのワクチン。国営新華社通信によれば、孫春蘭副首相は2日、近日中の承認を見越して「大規模生産の準備を整える必要がある」と指摘した。
政府は治験完了を待たず、7月に医療従事者らへの緊急使用を開始。シノファームは約100万人に投与し、「深刻な副作用は一例もなかった」と主張する。しかし、他のワクチンも含め、安全性などの情報はほとんど開示されておらず、懸念が残る。
国産ワクチンの実用化を急ぐ一方で、中国は自前の開発が難しい新興国の支援に乗り出している。10月にはワクチンを各国で共同調達する枠組み「COVAX」への参加を表明。習近平国家主席は11月の20カ国・地域(G20)首脳会議で「各国と協力し、人々がワクチンを使用できるように努める」と強調した。
中国は早期に感染抑制に成功したため、治験は流行の続く海外が中心だ。巨大経済圏構想「一帯一路」に参加するインドネシアのほか、ブラジル、メキシコに対し、既に計約1億2000万回分(6000万人分)の供給を確約している。
保健当局の専門家はワクチンの生産能力について、来年には国内と支援対象国の需要を満たせるとの見通しを示す。国際協力を旗印に、ワクチン供給を通じて影響力の拡大を図りたい考えだ。