【北京時事】中国湖北省武漢市在住の女性作家、方方さん(65)が、昨年12月の新型コロナウイルスの患者発生から1年に合わせ、時事通信の書面インタビューに応じた。都市封鎖下の現状をインターネットで発信し「武漢日記」を出版した方方さんは、不都合な情報を隠す当局の「悪習」が感染拡大をもたらしたと批判した。

傷痕癒えぬ武漢 「英雄都市」陰に市民の悲しみ―コロナ初感染から1年・中国

 感染拡大初期の1月上旬~中旬は湖北省と武漢市の人民代表大会・政治協商会議(両会)が相次いで開かれ、同25日の春節(旧正月)に向けた帰省ラッシュも重なった。方方さんは「感染まん延の主な責任は、春節前後や両会期間はどんなマイナス面の情報も報道しないという長年形成された習慣にある」と指摘。「習慣的に覆い隠し、(初動の)遅れを招いた」と述べ、武漢市当局や官製メディアを非難した。

 仮に当局の情報提供が円滑だったなら「人々は警戒して春節の集まりがなくなり、死者も減っただろう」と惜しむ。感染拡大初期は、ネット上で警鐘を鳴らした李文亮医師が「デマ」を流したとして警察から訓戒処分を受け、自らも感染して死去。「無実の罪で訓戒を受けた彼の死は人々の悲しみや憤慨を引き起こした」と振り返った。

 ブログで方方さんは「何もしなかった官僚たちは人民にどう謝罪するか考えよ!」などと当局を厳しく指弾。書面インタビューでも「コロナ禍が落ち着いた後、調査チームを設けて責任を追及すべきだ。そうでなければ代償を払った全ての人に申し訳ない」と強調した。

 中国のテレビ局や雑誌出版社に勤務した経験がある方方さんは「言論空間がますます狭まっている」と懸念を表明。「何を書くか書かないかは記者の選択ではなく、幹部の選択だ」と報道統制の現状を憂えた。

 方方さんはブログに、1月23日から2カ月半に及んだ都市封鎖中の記録や当局批判をつづり、1億人以上が読んだとされる。これをまとめた「武漢日記」は日米などで出版されたが、中国では出せずにいる。方方さんは「自国で本を出版できないという懲罰は過酷だ。コロナ禍で閉じ込められた街の人の生活を記録したにすぎないのに」と嘆いた。

 ◇方方さん

 方方(ファンファン)さん 1955年生まれ。本名・汪芳。中国の著名女性作家で、湖北省作家協会主席も務めた。武漢を舞台に社会の底辺で生きる人々を描く小説を多く発表。2010年に小説「琴断口」で権威ある魯迅文学賞受賞。「武漢日記」は日本で今年9月、河出書房新社から出版された。