【ワシントン時事】バイデン次期米大統領は、地球環境保護に消極的だったトランプ政権の路線から大きく方向転換を図る。就任初日の20日には、最重要課題に掲げる温暖化対策の国際枠組み「パリ協定」への復帰を正式表明する見通し。温暖化対策は先端技術や安全保障をめぐる覇権争いの手段として重みを増しており、超大国である米国の参戦により、日本や欧州、中国との攻防が激化するのは必至だ。
バイデン政権が真っ先に着手するのが温暖化対策に関する外交。2050年までに国内の二酸化炭素(CO2)などの温室効果ガス排出量を実質ゼロにすると宣言すれば、日欧と足並みがそろう。バイデン氏は就任100日以内に主要排出国による首脳会議(サミット)を開催すると明言した。今年11月に予定される国連気候変動枠組み条約第26回締約国会議(COP26)を前に、温暖化対策での指導力発揮へ布石を打つ。
世界最大の排出国である中国に徹底的な対策を迫る狙いもある。習近平国家主席は昨年、60年までにCO2排出量の実質ゼロを目指すと表明。一方、バイデン氏は中国の経済圏構想「一帯一路」を通じた石炭技術輸出を「汚い手法」と批判、民主党公約に是正を求めると明記した。米国は世界2位の排出大国として国際交渉の前面に立ち、中国の動きをけん制する方針だ。
バイデン氏は温暖化対策を外交、安保、通商政策に幅広く組み込む構え。公約では世界各国に化石燃料補助金の禁止を要請。温室ガス削減義務を怠った国・地域名を公表し、輸入品の一部に「炭素調整料」を上乗せするとした。欧州の先進的な取り組みに米国が近づく形となり、日本や中国は厳しい対応を強いられる可能性がある。
脱炭素産業の競争環境は激変しそうだ。バイデン氏は欧州と同様、新型コロナウイルス危機対応として再生可能エネルギーや電気自動車(EV)に投資や雇用を集中させる成長戦略を描く。一方、産業素材として重要度が増すレアメタルを豊富に抱える中国は、昨年12月に施行した輸出管理法を盾に禁輸措置を外交カードに使うとの臆測もある。
米カリフォルニア大のリア・ストークス助教授は「世界各国が産業競争力を維持するため、ガソリン車の販売禁止や産業別投資規制といった新しいルール形成競争に突入する」と予想する。日本はEV普及で出遅れているが、省エネ技術という強みもあり、攻守両面での戦略が求められることになりそうだ。