Gina Chon
[サンフランシスコ 20日 ロイター BREAKINGVIEWS] – 新たな米大統領となったバイデン氏率いる「経済ドリームチーム」を、ある種の悪夢が待ち受けている。新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)が米国のさまざまな構造問題を悪化させているからだ。貧困層はより貧しくなり、社会の片隅に追いやられている人たちはより職を失いやすくなり、失業者の再就職は一段と難しくなっている。
バイデン氏の側近チームは経済金融などの問題処理で豊かな経験を持つ。しかし、この先は想像力を働かせた仕事も必要になるだろう。
次期財務長官に指名されているイエレン前米連邦準備理事会(FRB)議長、次期国家経済会議(NEC)委員長に指名され、かつては自動車業界の救済に取り組んだブライアン・ディース氏らは、新政権の経済チームの幹部として、非常に大きな仕事を抱えることになる。例えば、昨年12月の米失業率は6.7%と、なおコロナ前のほぼ2倍で高どまりしている。
Breakingviewsは独自の分析手法でこの経済チーム候補者たちを評価してみた。彼らのこれまでの市場や国際問題、環境、統治などの分野の実績に基づくと、総合得点は130ポイントと、210ポイント満点中、相対的に高得点だ。彼らは今後、こうした能力をさらに総動員することが必要になる。米国社会が抱える根源的な問題は、彼らが切り抜けてきた2008年の金融危機よりも根深いからだ。
米社会の根源的な問題は、新型コロナの広範な接種といった、ニュースの見出しをにぎわす事象よりも奥底の部分で進行している。例えば薬物中毒だ。経済学者の故アラン・クルーガー氏が2017年に発表した研究論文では、生産年齢世代で働けていない米国男性の実に半数近くが「鎮痛剤」を処方されていた。そして今、米疾病対策センター(CDC)によると、医療での安易な鎮痛剤オピオイドの過剰処方が引き起こしたとされるオピオイド禍は、昨年5月までの1年間に何らかの薬物過剰摂取による年間死亡件数が過去最多を記録した最大の理由だ。
黒人層は以前から貧困率が米国平均より高かったが、昨年12月の失業率は10%近くもあった。家計資産の平均数値の押し上げに貢献してきた働く女性も、コロナの打撃が手ひどい。全米女性法律センターの調査では、昨年12月の雇用は差し引き後で14万人分が失われたが、純減したのはすべて女性だったという。
バイデン政権の経済チームはこうした問題について、例えばオピオイド禍に対処するカウンセリングなどの公的サービスを復活させることなどから手を付けることが可能だ。またバイデン氏はトランプ前大統領のかつてのテレビ番組のごとく、職業訓練プログラムで「見習い」受け入れをIBMやシーメンスといった企業にさせることもできるが、それだけでなく、予算を投じて再訓練プログラムを拡充するという手もある。
バイデン氏が先週発表した追加経済対策案は、学校再開に1300億ドル(約13兆4500億円)、子育てに400億ドルを振り向ける。多様な人材が控える同氏のチームはこれにとどまらず、伝統的な金融支援以外にも数々の選択肢を取りそろえ、米経済の「覚醒」につなげることが求められる。
●背景となるニュース
*ジョー・バイデン氏が20日、米大統領に就任した。次期財務長官に指名されたイエレン前米連邦準備理事会(FRB)議長は19日、上院で指名承認公聴会に出席した。
*全米女性法律センターの調査では、昨年12月に差し引きで失われた14万人の雇用は全て女性だった。15万6000人の女性が失業した一方、1万6000人の男性は新たに職を得ていた。
(筆者は「Reuters Breakingviews」のコラムニストです。本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています)