[上海/香港 22日 ロイター] – 世界的な半導体不足が、暗号資産(仮想通貨)ビットコインを「採掘(マイニング)」するためのコンピューター機材「リグ」の生産を直撃している。ビットコイン価格の急騰もあってリグの需要は増え、価格が跳ね上がっている。
採掘業界を牛耳ってきた中国の中小業者は、価格高騰に追い付けずに締め出され、業界再編が加速。ビットコインの上昇で利益を得るのは、中国以外に多い資金力豊富な大手業者かもしれない。
<世界的な不足、他製品に供給優先>
採掘業者が新たに獲得し、売却するビットコインの量は供給や価格に影響するため、採掘はトレーダーやユーザーから注目を集めている。
ビットコインは22日に1ビットコイン=3万2000ドル(約332万円)近辺で取引された。2週間前に付けた過去最高値から20%低い水準だが、3月の安値(3850ドル)との比較では依然として700%ほどの上昇となっている。
半導体設計・採掘機材大手イノシリコンのアレックス・アオ副社長は「採掘リグの製造を支えるのに十分な量の半導体がない」と述べた。
採掘業者の間ではビットコインの取引データ承認作業のために、高性能で特別に設計されたリグを使うケースが増えている。
しかし、アオ氏によると、台湾積体電路製造(TSMC)やサムスン電子など、掘削リグ向けに特別に設計された半導体を手掛ける主要メーカーは、家電などへの半導体供給を優先しそうだ。こうしたセクターの半導体は掘削リグ向けよりも需要が安定しているという。
半導体は世界的に需給がひっ迫し、自動車やラップトップ型パソコン、携帯電話などさまざまな製品で生産に支障が生じている。
採掘の収益性はビットコインの価格、リグで使用する電力のコスト、リグの効率、1ビットコインを採掘するのに必要なコンピューターの処理能力などに左右される。
採掘業者GMRの共同創業者であるゴードン・チェン氏は、ビットコインの価格が高騰したためリグの需要が急増したと指摘。「金が値上がりすればシャベルの需要が高まるし、牛乳が値上がりすれば乳牛の需要が高まる、というものだ」と話した。
<採掘できなくなる業者も>
採掘業者向け融資を手掛けるバベル・ファイナンスのマネジングディレクター、レイ・トン氏は「ほぼすべての大手採掘業者が市場でリグを手に入れようと探し回っており、高い価格を払って中古の機材を買おうとしている」と話した。「北米からの購入量が非常に多く、中国で供給ひっ迫を招いている」状態で、採掘業者の多くが発注した製品は、納入時期が8月や9月だという。
中国の掘削リグ最大手の1つ、ビットメインのウェブサイトによると、同社の製品はほとんどが売り切れとなっている。
掘削リグを扱う江蘇省の企業によると、中古市場では価格がこの1年間で50%-60%上昇し、新品の値段は2倍以上になった。「ビットコインの値上がりぶりを見れば当然だ」と言う。
ビットコイン価格の上昇により、採掘できなくなる業者も出ている。アトラス・マイニングの創業者レイモンド・ユアン氏によると、コスト上昇で中小の採掘業者は駆逐されている。「機関投資家は規模の大きさと管理能力の高さの両面で優位だが、ついて行けない個人投資家は一掃されるだろう」と語った。
アトラスは暗号資産の採掘事業に5億ドル以上を投じており、今後も大規模な投資を続ける計画だ。
調査会社トークンインサイトのウェイン・ツァオ最高執行責任者(COO)によると、採掘事業を拡大している大手業者の多くは、拠点を北米や中東など中国以外に置いている。「中国は電力価格の安さが強みの1つだったが、ビットコインが急騰する中で、この優位が消えてしまった」と言う。
ツァオ氏によると、世界のビットコイン採掘市場における中国の比率は以前80%ほどだったが、今では50%程度に低下しているという。
(Samuel Shen記者、Alun John記者)