[ワシントン 24日 ロイター BREAKINGVIEWS] – 銀行は世界金融危機の際に「大き過ぎてつぶせない」と言われたが、もし、アマゾン・ドット・コムが銀行業に進出すれば、この言い回しはもっとぴったりと当てはまるだろう。

米国の規制当局はノンバンクへの預金保険提供に前向きで、「バーチャル銀行」誕生に向けて道が開かれており、電子商取引の巨人であるアマゾンが銀行業を手掛ける可能性もある。電子的にサービスを提供する銀行が増えれば、これまで口座を持てなかった人の役に立ち得る。

しかし、アマゾンが手に入れるデータと同社の規模を考えると、問題は解決するよりもむしろ悪化しそうだ。

世界金融危機の発生以降、従来型銀行の業界では競争が薄れている。米連邦預金保険公社(FDIC)が預金保険を提供した金融機関の数は、過去20年間で半分に減り、約5000社になった。2008年からはむしろ、JPモルガンなど既成勢力が肥大化し、同行の19年の預金残高は約1兆6000億ドルと、この間に60%増えた。

ただ、ハイテク技術のおかげで金融サービス業界への新規参入が可能になった。例えば、ツイッターの創業者であるジャック・ドーシー氏が率いる決済企業・スクエアなど一部の企業は、産業銀行(ILC)という仕組みをうまく活用している。ILCが銀行免許を取得しつつ、その親会社は商業活動など他の事業に従事できるのだ。

FDICはILCを預金保険でカバーすることに前向きで、新規参入の扉が開かれている。FDICは10年以上にわたり、ILCによる預金保険申請の承認を拒否してきたが、昨年になってスクエアの申請を承認。同社はローンの組成や引き受け、不特定の預金性商品の提供を始めるとみられている。FDICは電子商取引大手、楽天からの同様の申請についても検討中だ。

銀行業界のロビー団体は、次にアマゾンのような大手IT企業が銀行業界に参入すると警告している。コミュニティー銀行(米国における小規模な銀行)の業界団体である米国独立コミュニティー銀行家協会(ICBA)などの言い分に耳を傾けると、ILCは親会社が米連邦準備理事会(FRB)の監督を受けておらず、リスクを抱えているという。

FDICは、最近のILCにある程度の経営基盤を担保する基準を設けており、金融システム全体はおおむね安全が確保されている。

例えば、スクエアの新たな銀行の場合、全資産(リスク性の有無は問わない)に対する資本水準の尺度である最低レバレッジ比率は20%と、JPモルガンなど大手行よりもずっと厳しく設定されている。スクエアは、地元に支店のない地域にも銀行サービスへのアクセスを広げているという側面もある。

アマゾンが銀行業を始めれば、スクエアと同じように、従来の銀行が無視しがちだった人々のお金のやりくりを助ける力になる、との意見が出てきてもおかしくない。

しかし、アマゾンのデータ分野における優越性への対処は、今よりも難しさが増してしまう。米政府は既に、アマゾンがそのプラットフォームから得た情報を駆使し、外部出品者ではなく自社のプライベートブランドが売れるように仕向けていると懸念している。

「アマゾン銀行」ができれば、データはさらに集まる。例えば、1億4000万人に上る有料サービス、アマゾンプライムの利用者の消費行動に関するデータなどがその一例だ。

規制当局は銀行業務と電子商取引業務の間に隔壁(チャイニーズウォール)を作ろうとするだろうが、既にフェイスブックなどで起きている不祥事を見ると、取り締まるのは難しいだろう。

消費者と規制当局は、まさにアマゾン並みの規模のとてつもない問題を抱え込むことになるかもしれない。

●背景となるニュース

*銀行業界の複数のロビー団体が、金融システムにおける産業銀行(ILC)の役割を巡り警鐘を鳴らしている。米連邦預金保険公社(FDIC)がILCへの預金保険の提供に前向きな姿勢を強めているのが背景。

*銀行政策研究所(BPI)と米国独立コミュニティー銀行家協会(ICBA)は12日、ILCは親会社が米連邦準備理事会(FRB)の監督対象でないため、リスクが生じると指摘した。ILCは銀行持ち株会社法の適用も除外されており、親会社は商業活動への従事が認められている。

*FDICは、10年余りにわたりILCによる預金保険申請の検討や承認を拒んできた。だが、昨年になってモバイル決済会社・スクエアと学生ローン会社・ネルネットによる申請を承認した。さらに日本の電子商取引大手、楽天からの申請についても検討を進めている。FDICは昨年12月、ILCによる預金保険申請に関する規則をまとめた。

(筆者は「Reuters Breakingviews」のコラムニストです。本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています)