英投資ファンドのCVCキャピタル・パートナーズなどが東芝に買収提案することが6日分かった。物言う株主との対立が続いている東芝の株式を非公開化して、経営判断を速める。今後経営陣と条件などの交渉を始め、当局を含め合意できればTOB(株式公開買い付け)に乗り出す。買収額は2兆円を超える見通し。日本を代表する企業が統治体制を変えるため、非公開化を検討する異例の事態となった。
CVCは買収額の目安として足元の株価の3割程度のプレミアム(上乗せ幅)を提示したもよう。今後、他の投資ファンドなどに買収への参加を呼びかけることも検討し、経済産業省などとの調整も始める。6日時点の東芝の時価総額は1兆7437億円で、仮に約3割のプレミアムを付けてTOBが成立すると買収総額は2兆3000億円弱となる。
非公開化の提案を受けて、東芝の取締役会は提案が株主の利益にかなうものか検討を始める。手法や価格が妥当か交渉し、提案への賛否を表明する。原子力事業を持つ東芝は2020年に施行した改正外為法で重点審査の対象となっており、財務省が事前審査することになる。
東芝は過去に不正会計問題や米原発子会社の巨額損失で経営危機に陥った。17年には2期連続の債務超過による上場廃止を防ぐため約6000億円の増資をし、その際に引き受けた物言う株主との対立が深刻化している。
子会社での循環取引や株主総会の運営などを巡って株主から企業統治の不備を批判され、資本政策を巡っても一部株主と意見が割れた。筆頭株主でシンガポールの投資ファンドのエフィッシモ・キャピタル・マネージメントは20年の総会で自ら推薦する取締役の受け入れを求める株主提案を出していた。
提案は否決されたが、同総会で一部株主の議決権が無効になっていたことが判明した。エフィッシモは調査を求めて臨時株主総会を要求。今年3月の総会で約58%の賛成を集めて可決し、第三者の弁護士が調査をしている。
18年4月に東芝として53年ぶりの外部トップとして就任した車谷暢昭社長兼最高経営責任者(CEO)は元三井住友銀行副頭取で、CVCの日本法人会長も歴任した。物言う株主との対立で、20年の総会では再任の賛成率が約57%まで低下していた。
CVCは過去にすかいらーくの非公開化を手がけたほか、最近では資生堂の日用品事業を買収した。1981年設立で、世界23カ所の拠点に1178億㌦の運用資産を持つ。
東芝は経営再建の過程で、稼ぎ頭だった半導体メモリー事業を分社して過半を売却。不採算事業からの撤退を進めるなど、選択と集中を進めてきた。一連の改革で収益力は改善し、20年3月期の営業利益は1304億円と前の期比約3.7倍となった。21年1月下旬には、約3年半ぶりに東京証券取引所2部から1部に復帰した。
TOBが成立し、物言う株主が東芝株を手放すと、株主は1社になる。経営の意思決定の仕組みは単純化される。再生可能エネルギーやインフラ事業に経営資源を集中して、成長につなげる。
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