旧日本軍の慰安婦だった李容洙(イヨンス)さん(92)ら20人が日本政府に総額30億ウォン(約2億9千万円)の損害賠償を求めた訴訟の判決が21日、ソウル中央地裁で言い渡された。判決は、国家には他国の裁判権が及ばないとする国際法上の原則「主権免除」を日本政府に認め、原告の請求を却下した。2015年末の日韓慰安婦合意による元慰安婦への支援について、権利救済の有効性を韓国の司法として初めて認定した。
日本政府は、賠償問題は1965年の日韓請求権協定で解決済みとの立場で、主権免除を理由に裁判への参加自体を拒否してきた。
同地裁は今年1月に別の元慰安婦訴訟で、慰安婦制度が国際法で絶対に守らなければならない規範に違反したものとする判断などを示し、日本政府の主権免除を認めずに元慰安婦らへの賠償を命じた。これに対し、今回の判決は、国際社会の共通ルールとされる国際慣習法や韓国大法院(最高裁)の判例などを理由に日本の主権免除を認めた。
21日の判決は、日本が元慰安婦の支援を目的に10億円を拠出した15年末の日韓慰安婦合意に言及。国家間の合意が今も存続し、「被害者の権利救済手段として否定することは難しい」とした。原告側の説明では、元慰安婦4人を含む原告20人のうち9人が、15年の日韓合意に基づき設置された「和解・癒やし財団」から支援金を受け取っていた。
ただ、判決は合意に基づく支援だけでは不十分と指摘。「被害者の回復は、韓国政府が日本との外交的交渉などの努力で解決しなければならない」と求めた。
加藤勝信官房長官は21日の記者会見で、「内容について精査する必要があり、現時点で政府としてのコメントは差し控えさせて頂く」と述べるにとどめた。(ソウル=鈴木拓也)