自民党の二階俊博幹事長が、2019年参院選広島選挙区の大型買収事件で原資になったとの指摘がある1億5000万円の支出について関与を否定した発言が物議を醸している。「担当」だったと名指しされた甘利明・元選対委員長が所属する麻生派は反発。菅義偉首相を支える勢力内の不協和音は政権の基盤を揺るがしかねないとして懸念の声が出ている。

二階、甘利氏が責任回避 1.5億円支出、泥仕合の様相

 発端は17日の二階氏の記者会見。問題の支出について「私は関与していない」と明言し、同席した腹心の林幹雄幹事長代理は「当時の(甘利)選対委員長が広島を担当していた」と補足した。

 これに対し、甘利氏は18日、記者団に「1ミクロンも関わっていない」と完全否定。麻生派の閣僚経験者は「甘利氏のせいにしている。了解を取って言っているのか」と怒気を込めた。

 麻生派を率いる麻生太郎副総理兼財務相やその盟友の安倍晋三前首相と二階氏は、首相を挟んで緊張関係にあるとされる。二階氏側の「仕掛け」に安倍、麻生両氏に近い関係者は「党内政局だ」と語る。

 一方で二階、林両氏の発言は、党広島県連会長の岸田文雄前政調会長が12日に真相解明を二階氏に求めたことが伏線になったとみられている。岸田氏は安倍氏と近い。二階氏周辺は「責任を押し付けて幹事長から引きずり降ろす動きと感じ取った」と解説。内閣支持率低下を受け「永田町のパワーゲームが始まっている」との見方を示した。

 18日の二階氏の会見で林氏が「根掘り葉掘り党の内部のことまで踏み込まないでもらいたい」と記者団をけん制したことも火に油を注いだ。ある閣僚は「やましい感じが出ているから衆院選に響く」と嘆き、中堅は「国民からさらに疑念を招く」と漏らした。

 こうした状況に二階氏サイドは沈静化に乗り出した。林氏は18日に電話で甘利氏に「他意はなかった」と陳謝。関係者は19日、二階氏が来週にも会見で説明するとした上で「決裁は幹事長だが、どこにいくら出すかは各選挙区の担当が組み立てる。そこは戦略だから言えない」と語り、うやむやのまま幕引きを図る考えをにじませた。

 ◇野党「黒幕」追及へ

 1億5000万円の支出をめぐっては河井案里元参院議員擁立を主導した安倍、菅両氏の関与を疑う声が出ている。野党は「黒幕」が誰か追及する方針で、立憲民主党の安住淳国対委員長は19日、記者団に「誰も関わっていないなんてあり得ない」と強調した。