都道府県設置の広域保健所が担当する新型コロナウイルス感染症の自宅療養者をめぐり、全国34都府県で、療養者氏名などの個人情報が管内の市町村に提供されていないことが、読売新聞の調査でわかった。提供しない理由として県側の多くは「個人情報の保護」を挙げるが、自前の保健所がない市町村では、どこに療養者がいるか分からず、健康状態の確認や生活面での支援が難航している。

 第5波で自宅療養者は増え続け、8月25日時点で全国で10万人以上いる。自宅療養中に症状が急変して死亡するケースも相次いでいるが、感染者情報を一括して管理する保健所の業務が 逼迫ひっぱく し、健康観察や食料配達などの生活支援が追いついていないケースも多い。

 今年2月に施行された改正感染症法は「都道府県は必要に応じて市町村と連携するよう努めなければならない」と定めている。この規定に基づき、厚生労働省は8月、療養者情報の提供を前提として都道府県と市町村が連携し、生活支援を行うよう通知した。

 しかし、読売新聞が8月30日~9月1日、全国47都道府県に対し、広域保健所が持つ自宅療養者の氏名や住所、連絡先といった個人情報を管内市町村に提供しているかどうかを尋ねたところ、34都府県が「提供していない」と回答した。

 このうち、東京や福岡など19都府県が、提供しない理由に「個人情報保護条例に抵触するか、その恐れがある」を挙げた。

 「市町村から要望がない」ことを理由に提供していないのは長野や岡山など5県。岩手と秋田、和歌山などの5県は管内に自宅療養者がいないため提供していない。また、「保健所で自宅療養者への対応ができている」といった県も複数あった。

 一方で、療養者情報を提供している13道府県でも、「本人の同意」を取っているケースが目立ち、慎重な姿勢が浮かび上がった。神奈川県や群馬県では、本人の同意なく迅速に情報を提供しているが、事前に利用目的や責任の所在を明記した覚書を市町村側と締結している。神奈川県から情報提供を受けた海老名市では、自宅療養者の体調確認で異変に気づき、救急搬送につながったケースもある。

 早稲田大の人見剛教授(行政法)は「個人情報の提供がなければ市町村とは連携できない。医療が逼迫してなかなか入院できない中、市町村も巻き込んで積極的に支援し、自宅療養者の窮状を救っていくべきだ」と指摘している。

 ◆ 広域保健所 =都道府県が設置し、複数の市町村エリアをまとめて管轄する保健所。全国1741市区町村のうち、大半は広域保健所の管轄下にある。一方、地域保健法では、政令市、中核市、東京23区と、同法施行令で定められた5市(小樽、町田、藤沢、四日市、茅ヶ崎)は自前で保健所を設置できると定めており、こうした自前保健所を持つ市区は現在、110ある。