西山 瑞穂

米製薬大手から得たがん免疫治療薬「オプジーボ」の特許使用料(ロイヤルティー)の配分をめぐり、本庶佑(ほんじょ・たすく)京都大特別教授が、製造販売元の小野薬品工業に約262億円の支払いを求めた訴訟は2日、大阪地裁でノーベル賞受賞者と製薬会社トップが直接対峙(たいじ)した。双方の主張はすれ違い、長年の対立も浮き彫りになった。

「(小野薬側は)今日と明日で言うことが違う。企業文化として普通なら驚きを禁じえない」。2日に法廷に立った本庶氏は、厳しい口調で小野薬側の姿勢を批判した。

尋問では、オプジーボ発売直後の平成26年秋、相良暁(さがら・ぎょう)社長が自ら本庶氏の研究室で提案したメルク訴訟における金銭配分をめぐり、応酬が過熱した。

提案は、小野薬側が外部からロイヤルティーを得た際に本庶氏へ支払う対価を、当初契約の10倍程度に引き上げ、さらに、メルク訴訟で得た収入の40%を支払うとの内容。小野薬にとっては「あれ以上の条件を出せないぎりぎりの判断」(相良社長)だったが、本庶氏は「はした金」と述べ、書面での合意はならなかった。

オプジーボをめぐる両者の関係は、30年近く前までさかのぼる。平成4年、本庶氏が免疫を抑制するタンパク質「PD―1」を発見し、その後、共同で特許を出願。18年には小野薬が外部からのロイヤルティーの1%を対価として本庶氏に支払うことなどを定めた契約を結んだが、実用化が見えた23年以降、本庶氏が大幅な上乗せを要求した。

「はした金」発言について本庶氏は、ロイヤルティーの引き上げを求めただけで、「40%の提案を拒絶した覚えはない」と主張。拒絶と理解したとする小野薬側と正面から対立した。

さらに、本庶氏は、小野薬がオプジーボ開発に投下した約1200億円という金額を「きわめて普通」と指摘。「PD-1の特許はきわめて特別。背景にある京都大の百何十年の歴史も加味しなければならない」などと述べ、発明の価値を強調した。

これに対し相良氏は、開発の初期段階において、がん免疫治療薬に対する医療業界の目は懐疑的で、専門医に「こんな薬ががんに効くと思っているだけで腹が立つ」と言われたエピソードを紹介。小野薬が投資と血をにじませる努力を重ねたことで、実用化にこぎつけたと訴えた。

その上で、「経営には予見性が大事。契約にない、後出しじゃんけんのような要求が認められると、製薬業界、ひいては産学連携に大きな禍根を残す」と主張した。