自民党総裁選(17日告示、29日投開票)への出馬を表明した河野太郎ワクチン担当相は10日の立候補記者会見で、約1時間15分にわたり40以上の質問にテンポよく応じ、瞬発力の高さを印象付けた。ただ、「脱原発」といった持論は封印し、いつもの歯に衣(きぬ)着せぬ発言も鳴りを潜めた。首相就任という河野家3代にわたる悲願成就に向け、現実路線にかじを切った形だ。
「それなりの自信を持ってここに立っている」。河野氏は会見でこう述べ、笑みを浮かべた。産経新聞社とFNN(フジニュースネットワーク)の8月の合同世論調査で、次の首相にふさわしい政治家を尋ねたところ、河野氏は17・9%でトップに立った。会員制交流サイト(SNS)を駆使した高い発信力が人気を支えているようだ。
ただ、河野氏に対しては党内で皇室関係や原子力政策で「暴走するのではないか」との懸念が根強い。かつて前例のない「女系天皇」を容認し、「脱原発」を推進する構えを示していたからだ。実際、河野氏が所属する麻生派(志公会、53人)のベテラン議員からは「国益を考えろ」と忠告を受けていた。
こうした声を意識したのか、この日の会見では冒頭に「日本の一番の礎となっているものがこの長い伝統と歴史や文化に裏付けられた皇室と日本語だ」と切り出した。総裁選や次期衆院選に向けて、保守層に広がる「河野アレルギー」を鎮める狙いがありそうだ。
党内の原発推進派や財界などを念頭に持論の「脱原発」もオブラートに包んだ。「いずれ原子力はゼロになる」としつつ、「安全が確認された原発を当面は再稼働していくのが現実的だろう」と語った。
農相を務めた祖父の一郎氏、自民党総裁まで上りつめた父の洋平氏はいずれも「総理の座」にわずかに届かなかった。河野氏の〝軌道修正〟には幅広い層にアピールし、勝利を確実にするための戦略性も透ける。
一方、総裁選を競う高市早苗前総務相は10日、記者団に河野氏の印象について「反原発、原発ゼロでしたっけ。河野氏の地元を車で通り過ぎたときに、そのポスターがいっぱい貼ってあり、その印象がある」と指摘。同じく出馬を表明している岸田文雄前政調会長も記者団に自身の長所を問われ、「『聞く力だ』。政治は全員野球。怒鳴ってばかりではチーム力は発揮できない」と述べた。官僚に対し職務上の厳しい指導を辞さぬと評される河野氏を意識したことは明らかだ。(大島悠亮)