【ワシントン時事】グローバルリーダーが欠如した「Gゼロ世界」論を唱える米国の政治学者イアン・ブレマー氏(ユーラシア・グループ社長)は時事通信のインタビューに応じ、米国では同時テロ以降の20年間で内向き志向が強まり、国内だけでなく同盟国との分断も進んだと語った。同時テロ後を「ポスト平和」時代と位置付け、主導国を欠いた世界で、米国と中国が新たな「冷戦」に向かって進んでいると警鐘を鳴らした。
「武器ビジネス」拡大の一途 軍事費は最高水準―米同時テロ20年
ブレマー氏は「同時テロ直後に米国民は団結し、同盟国は結束したが、20年後の今では国民は分断され、同盟国もバラバラになった」と指摘。米国は「世界の警察官」としての役割を拒み、「単独主義と内政重視、対外的には取引主体に大きく傾いた」と分析した。
第2次大戦後、米国が次なる世界大戦を防ぐために国際秩序構築に積極的に関与した「ポストウォー(戦後)」の時代は終わったと説明。戦争の脅威を知らずに育ち、国際的リーダーシップを取る必要性を感じない国民が大半を占める「ポストピース(平和後)」の時代に入ったとの見方を示した。
この時代、政治システムは機能不全に陥って経済格差は拡大し、国民は国際貢献に関心を持たなくなった。バイデン政権も同盟国と連携せずにアフガニスタン撤収を強行したり、途上国に新型コロナウイルスワクチンが普及し切らない中で自国民の追加接種開始に踏み切ったりしており、「党派に関係なく、この国全体が過去20年で米国第一主義に傾斜した」と述べた。
中国に関しては「国際安全保障上の最大の脅威であると同時に、主要経済パートナー」と強調した。米中両国は南シナ海や台湾問題などで対立を深め、「米国政治と中国の戦狼外交は共に冷戦の方角に向かいつつある」と分析。一方で「相互依存関係は容易に消えない」と語り、旧ソ連との間のような敵対関係とは異なるとの認識を示した。
また、米国がシリアやウクライナ、アフガンなど国益に直結しない国や地域で「世界の警察官」としての役割を担わなくなったとしても、超党派が最重要課題と認める中国が存在するアジアには関与を強め、「日本はより重要な同盟国になる」と指摘した。日本としては、米中関係がより緊迫し「冷戦」に突き進まないよう働き掛ける必要があると訴えた。