【ワシントン=塩原永久】英国で月末に始まる国連気候変動枠組み条約第26回締約国会議(COP26)を前に、バイデン米大統領が巨額歳出法案の議会通過を急いでいる。温暖化対策を盛り込んだ法案が成立しなければ、米国の温室効果ガス削減目標の実現が危ぶまれ、バイデン氏が演出したい国際指導力に傷がつきかねないためだ。法案に反対しているのは、石炭産地出身の与党・民主党議員。バイデン氏は身内の抵抗に手を焼いている。
「法案が成立しないで、どうやって大統領は『米国が環境対策のリーダーだ』と示せるのですか」
ホワイトハウスの21日の定例記者会見で、記者からそんな質問を受けたジャンピエール副報道官は「議会に頼らなくても大統領は大丈夫だ」と強弁するほかなかった。
バイデン政権と民主党指導部がまとめた3兆5千億ドル(約400兆円)規模の歳出法案は福祉拡充や環境対策が柱だが、党内の意見集約に手間取り、成立が遅れている。
法案には、石炭などの化石燃料から、太陽光や風力の再生可能エネルギーへの移行を、電力・ガス事業者らに促す優遇措置などが盛り込まれている。米国が掲げた温室効果ガス排出量を2030年に05年比で50~52%削減する目標の達成には、こうした施策が不可欠だとされている。
法案成立に立ちはだかる壁は、民主党の上院議員、ジョー・マンチン氏だ。全米屈指の石炭産地である南部ウェストバージニア州選出で、バイデン氏による直談判にもかかわらず、21日にも、法案内容に自身が合意するのは「すぐにはあり得ない」と言い放った。
マンチン氏は党内で穏健中道派と位置づけられ、財政赤字拡大に反対する立場から、巨額歳出法案の規模縮小を主張。バイデン氏と党指導部は、マンチン氏ら中道派の要求を受け入れ、2兆ドル程度まで圧縮した。
上院(定数100)で民主党は50議席を押さえているが、1人でも離反すれば法案を可決させられない。「決定票」を握る形となったマンチン氏が、バイデン氏と党全体を振り回す構図となっている。
地元州知事を経験したマンチン氏は、化石燃料から再生可能エネルギーへの移行を後押しする「グリーン革命」に消極的で、温暖化対策に熱心な民主党の急進左派から敵視されている。巨額歳出法案の一部の温暖化対策にも、地元雇用を守る立場から反対していると報じられている。
トランプ前米大統領が地球温暖化対策の国際枠組み「パリ協定」から脱退したが、バイデン氏は就任直後に復帰し、「世界を主導する」と宣言した。法案を成立させて具体策を打ち出せなければ、温室効果ガス削減目標が「空手形」となりかねず、「米国の信頼性に傷をつける」(米環境団体首脳)と指摘される。米政権はCOP26開幕までに何としても法案通過のめどをつけたい考えだ。