現代ビジネス

なぜ「10万円1回」ではないのか

 筆者は、毎土曜日の朝、関西のある番組に出演しているが、今日は12月4日に話したことを少し深掘りしよう。 

【写真】「日本の借金1000兆円」はやっぱりウソでした~それどころか…  

 第一は、政府の経済対策において、18歳以下の10万円相当の給付分について、5万円のクーポン券と現金に分けるという給付という方式については「無駄使い」だと考えている点についてだ。  

筆者の結論はシンプルで、「10万円1回」にしたらいい。多くの人もそう思うだろう。  

 しかし、鈴木俊一財務大臣は「クーポン給付事務費967億円 鈴木財務相「過大な水準ではない」(https://www3.nhk.or.jp/news/html/20211203/k10013372981000.html)という。ちょっと信じがたいレベルだ。  

5万円分のクーポン支出で、予算額はおよそ1兆円である。その1割が経費というのは驚いてしまう。  

 それにしても、10万円相当の給付を5万円現金と5万円クーポンに分けるというのは、自民党と公明党の政治決定によるものだった。これは、現金だとすべてが消費に回らないのはまずいという単純な理屈から来ているのだろう。  

 この種の議論は、これまで何度も話し合われてきた。「地域振興券の消費喚起効果等について」(https://www5.cao.go.jp/99/f/19990806f-shinkouken.html)という内閣府のレポートが一例だ。それによれば、現金でもクーポンでも消費喚起効果には大差ないとしている。

なぜクーポンにこだわるのか

 そもそも、配布の形式が消費に回らないことと関係があるのか、との議論もある。消費に回らず貯蓄になっても消えるわけではなく、長い目で見れば投資になるから心配しすぎるほどのものではない。貯蓄になってもいつかは消費になるともいえる。  

一つの割り切りは、カネを配ればあとの使い道は国民に任せることだ。これだけで経済対策としては及第点になる。

 筆者は、番組の中で、「給付事務は自治事務にあたるので、地方自治体の判断により10万円現金給付で1回で済ますことは可能だ」といった。  

 11月19日の閣議決定でも、「地方自治体の実状に応じて」と書かれている(https://www5.cao.go.jp/keizai1/keizaitaisaku/2021/20211119_taisaku.pdf)。

 いくつの自治体では、実際にクーポンではなく現金給付を決めたところもあるようだ。その方が賢明だ。

 しかし、政府の方から、また奇妙な案も出てきた。「18歳以下の5万円分クーポン、デジタルと紙の2通りで」(https://www.sankei.com/article/20211205-TLS3NIQAEROTNI3A3H5YXLNP7Y/)との報道もある。

 それによれば、「自治体が開設した通信販売専用のサイトで利用できるポイントを付与する形式を検討しているほか、過去の給付と同様に紙のクーポン券も用意。実務を担う市区町村が域内でどちらを使うか選択できる」という。

 どこまでクーポンにこだわっているのか、何かよほど「旨い話」でもあるのかと邪推してしまいそうだ。

ふるさと納税サイトを使う

 筆者は、上に述べたとおり、クーポン配布は「馬鹿馬鹿しい」以外の言葉を持たないが、ここまで政府がクーポンに拘りたいらしいので、上の案への対案を述べておこう。

 政府案では、新しいサイトを作るということだが、筆者の案は、既存のふるさと納税サイトを使うものだ。  ご承知のとおり、ふるさと納税サイトは民間で運営されているが、これまで大きな事務ミスはなく、その信頼性は一定程度あるだろう。その仕組みは、住民が地方自治体にサイト上で寄付をすると、返礼品を選ぶことが出来る。これらはすべてサイト上で行える。

 この仕組みを使うと、本人確認のために、形式的な寄付(例えば1,000円)を行い、閣議決定に書かれている「子育てに係る商品やサービス」5万1000円分相当を返礼品として、住民に送ればいい。

 ふるさと納税サイトは、いくつもあるので、競争入札でもしてみればいい。既存のシステムなので経費は900億円もかからないだろう。

 なぜか新システムというと、経費はかかるし胡散臭く感じるので、既存システムのほうがいいだろう。しかも、新システムではよくあるシステムトラブルも少ないだろう。まったく、今の政府の考えることはちょっと的外れが多すぎる。

 次は、先週あった水際対策の「不手際」だ。

 南アフリカなどで新型コロナウイルスの新たな変異株「オミクロン」が確認された。感染力は従来の3倍だという。世界保健機関(WHO)はオミクロンを重大な結果をもたらす恐れがあると警告している。

 各国の政府は水際対策として渡航制限を強化。日本も全世界からの外国人の新規入国を30日から全世界を対象に中止とした。

政策も実務もグダグダの岸田政権

 南アフリカ現地医師らの話によると、これまでに診察した30代などの患者はいずれも「症状が軽い」という。感染力と症状は相反するというのは、これまで言われてきたことでもある。ただ、症状が分かったケースは全て軽症か無症状で、世界保健機関(WHO)にも死者の報告は入っていないという。

 南アフリカでは、デルタ株は8割程度オミクロン株に置き換わったといわれている。しかも、ワクチン2回接種率は25%程度なので、ワクチンの効果は今のところそれほどないという状況だ。そこにおいて、過去の感染率と死亡率の関係からみれば、まだ死者が出ていないというのは毒性が弱いという可能性は残されている。

 もっとも、死者数は新規感染者数より2週間程度のラグ(時間の遅れ)があるので、今の段階でそう断定するのは尚早だ。ただし、あと2週間程度すると、もう少しスッキリとした言い方ができるかもしれない。

 それにしても、国交省が行った「日本到着の国際線の新規予約停止」はお粗末だった。この話は、11月29日の水際措置(https://www.anzen.mofa.go.jp/info/pcwideareaspecificinfo_2021C145.html)からでている。

 その中で、「12月1日(水)午前0時(日本時間)以降、日本に到着する航空便について、既存の予約について配慮しつつ、新規予約を抑制します」と書かれている。 国交省の要請に従い、国際線の新規予約が停止されると、海外から日本に年末年始に帰国する人の間で大騒ぎになった。

 これを受けて筆者は、「これまで緊急事態条項の欠如(憲法改正しなかったこと)で、有事における規制の議論をサボってきたために、とんでもない方法で水際対策をやろうとしている。水際対策は必要なので、国内外にいる日本人保護をきちんといなければいけない」とツイートした(https://twitter.com/YoichiTakahashi/status/1466196977800994819)。日本人はいち早く帰国させ、水際措置としては隔離するのが筋だからだ。帰国させ内という選択肢はない。

 その段階でも、この措置を支持する識者もいて、筆者は驚いたが、2日昼過ぎ、政府は「国際線新規予約の一律停止要請取り下げ」を決め、日本人の帰国需要に十分配慮して対応するとした。  番組では、「総理、官房長官らが事前に連絡がなかったとしているが、11月29日に出された水際対策の一環であり、知らなかったとは考えにくい」とコメントした。 要するに、岸田政権は政策もグダグダだし、実務も抜けているのだ。

髙橋 洋一(経済学者)