【ワシントン時事】バイデン米大統領が主宰し、オンライン形式で行われた「民主主義サミット」が10日、閉幕した。権威主義国と見なし、「唯一の競争相手」と警戒する中国への対抗軸に民主主義を据え、国際社会の結集を図るのが狙いだった。バイデン政権は、気候変動などでは中国との協力も必要と訴えるが、中国はサミット開催に反発を強めており、陣営対立を加速させる恐れもある。
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◇盟主アピール
バイデン氏は閉幕演説で「民主的価値が国際システムの中心だ」と宣言した。ただ、理念先行で、具体的成果は乏しかったのが実情だ。
9日の開会演説では「民主主義は継続的かつ憂慮すべき挑戦にさらされている」と警告した。サミット開催を公約にしてきた背景には、世界的な民主主義の退潮と、中国やロシアなど権威主義体制と見なす国の影響力増大への危機感がある。サミットに約110カ国・地域を招待し、各国の取り組みを確認することで、米国が民主主義の「盟主」であることをアピールした。
しかし、米政府がサミットに合わせて発表した「民主主義再生構想」の予算は、4億2440万ドル(約480億円)にとどまった。独立系メディア支援や汚職対策など盛り込まれた内容の地味さは否めず、米メディアの報道ぶりも低調だった。
参加国全体の共同声明も発表されなかった。各国の対中関係の温度差に配慮し「対中国」を明示的に打ち出すことは避けたとみられる。
ただ、ビデオメッセージを寄せた台湾の唐鳳(オードリー・タン)政務委員(閣僚)は、中国を念頭に「台湾は権威主義との世界的闘争の最前線」だと強調。香港の民主活動家、羅冠聡氏も「私の体験は、アジアで最も自由な都市が権威主義的な警察国家になり得るという最たる例だ」と述べ、中国による香港統制強化を批判した。
◇新たな冷戦
バイデン氏は「新冷戦は望んでいない」と繰り返すが、中国側はサミット開催は「冷戦思考」と非難。民主主義と権威主義の陣営対立があおられつつある。
実際にパキスタンが直前に参加を取りやめたのは、中国が圧力をかけたからと疑われている。中米ニカラグアが9日、サミット開催にぶつける形で、台湾との断交と中国との国交回復を発表するなど、水面下で米中のつばぜり合いが繰り広げられた格好となった。
また、強権的傾向を強める北大西洋条約機構(NATO)加盟国のトルコやハンガリーは招待されなかった。在米ハンガリー大使館は米メディアに「(トランプ)前政権と友好的だった国は招待されなかった」と主張した。サキ米大統領報道官は「招待国リストは承認、不承認のスタンプではない」と述べるにとどめ、具体的な基準は示さなかったが、バイデン政権と折り合いの悪い国々に中国やロシアが接近を強めることも考えられる。
バイデン氏は来年、2回目の民主主義サミットを対面で開催する意向を表明している。今回の会合で各国が示した民主主義強化への方策の進展状況を確かめる場にしたい考えだが、米中対立は激しさを増すばかりで、中国が参加国の切り崩しを図る可能性もある。