• 自社株買いの制限を求めた質問に「大変重要なポイントと認識」
  • 主要企業の自社株買い相次ぐ、日銀に代わり株式相場下支え

岸田文雄首相は14日の衆院予算委員会で、企業の自社株買いに関連してガイドラインを作る可能性に言及した。企業が投資家から資金を調達すべき株式市場が投資家に資金を供給する場所になっているとして、自社株買い制限の検討を求めた立憲民主党の落合貴之氏の質問に答弁した。

  自社株買いの制限は、新しい資本主義を実現する観点から「大変重要なポイントでもある」とも述べた。ただ画一的に規制することは「少し慎重に考えなければいけない」としている。

  発言を受け、東京株式相場は午後に入り、下げ幅を拡大し、日経平均株価は一時300円超の値下がりとなった。

自社株買いに関する発言
「自社株買いについてはそれぞれの企業判断に基づいて状況に応じて判断していく問題ではありますが、私自身、多様なステークホルダーを重視して持続可能な新しい資本主義を実現していくということから考えました時に、ご指摘の点は大変重要なポイントでもあると認識を致します」「企業のさまざまな事情や判断がありますので、画一的に規制するということは少し慎重に考えなければいけないのではないか。個々の企業の事情などにも配慮したある程度の対応、例えばガイドラインとか、そういったことは考えられないだろうかということは思います」

  落合氏は「一生懸命働いた売り上げを株価を上げることばかりに使うことは問題だ」と給与上昇や設備投資ではなく自社株買いに資金を投じる企業を批判し、政府の見解をただした。

  これまでにも「成長と分配の好循環」を掲げる岸田首相の発言に、株が売られる場面があった。株価下落や市場の批判を受けて当面の間、撤回する意向を示した金融所得課税についても将来的な実施は否定していない。  

  伊藤忠総研の武田淳チーフエコノミストは「金融所得課税について言及した時と同じで、株式市場への影響を考えていないとみられる発言だ」と指摘。「前向きに検討すると捉えられるような発言をするのは軽率だ」と批判した。

自社株買いはコロナ前上回る

  日本企業の自社株買いが復活する兆しを見せており、上場投資信託(ETF)買いを控える日本銀行に代わって株式相場を需給面から支えているのが現状だ。 東海東京調査センターによると2022年3月期の自社株買いは総額7兆円超となる見込みで、コロナ禍で落ち込んだ前期を上回るペースだ。

  ソフトバンクグループは、7-9月期(第2四半期)の純損益が3979億円の赤字になり、先月の決算発表説明会の開催中に発行済み株式総数の14.6%、1兆円を上限に自社株買いを実施すると発表した。トヨタ自動車や三菱UFJフィナンシャル・グループなども第2四半期決算と同時に相次いで自社株買いを発表している。

岸田文雄首相Photographer: Kiyoshi Ota/Bloomberg

  ピクテ投信投資顧問の松元浩常務は「自社株買いの原資が利益ならいいが、近年は赤字決算による株価への悪影響を相殺させるために自社株買いを行うケースや借金によって自社株買いを行うケース」が見られると指摘。岸田首相がこうした事例を規制するために「何らかのガイドラインを考えている可能性もある」と指摘した。

  日本取引所自主規制法人が2014年4月に定めた自己株式取得に関するガイドラインでは、直前約定価格の水準を買い支えて相場のくぎ付けをするような買い付け行為、決算期末日以前の5営業日における株価の維持を意識した買い付け、公募または売出の価格決定に影響を及ぼし得る期間内に買い付けを行っていないかなどを主に注視するとしている。