[東京 14日 ロイター] – 日銀が「指し値オペ」を使って金利上昇を止めに来た。ウクライナ情勢の緊迫化もあり、円金利はいったん低下する見通しだ。しかし、世界的なインフレは加速しており、金利上昇圧力は下がりそうにない。オペで大量に国債を購入して金利上昇を抑えれば、金融緩和強化と受け止められ、円安が進む可能性もある。輸入インフレに拍車がかかれば消費者に不満が強まりかねない危険もはらむ。 

<異例の発表>

異例の発表だった。日銀は10日午後6時過ぎ、14日に10年債を対象に「指し値オペ」を実施すると発表した。前回3年半前のように取引時間中ではなく、日本の市場参加者がほとんどいなくなったような時間に、翌営業日の実施を発表したのは、足元の急激な金利上昇に対応したとの見方が市場では多い。

強い数字が出ると予想されていた1月の米消費者物価指数(CPI)を控え、日本の10年国債利回りの上昇は止まらず、10日夕方に、一時0.230%と、日銀がマイナス金利政策導入を決定する前となる2016年1月22日以来の高水準を付けた。

三菱UFJモルガン・スタンレー証券のシニアマーケットエコノミスト、六車治美氏は「日本は三連休ということで、海外市場の状況次第では週明け月曜日にいきなり0.25%を突破してスタートというリスクもあった」と指摘。予防的に指し値オペ実施を発表して、不測の金利上昇を招かないようにしたのではないかとみる。

「指し値オペ」は固定の金利(今回は0.25%)で国債を無制限に全額購入するという強力な金利上昇抑制手段だ。もし、14日早朝から10年国債利回りが0.25%を上回っていれば、日銀は実勢よりも高い値段で国債を買ってくれるということになり、売りが殺到するおそれがあった。

<世界のインフレは止まらず>

今回はウクライナ情勢の緊迫化もあり、世界の国債金利は低下に向かっていることから、日本の10年債金利も14日は低下するとみられている。実勢金利が0.25%以下であれば、「指し値オペ」への応札はほとんどない見通しだ。

しかし、世界のインフレは一向に緩和の様相を見せておらず、円金利への上昇圧力も続く可能性がある。10日に発表された1月の米CPI(季節調整済み)は前年同月比7.5%上昇し約40年ぶりの大きさとなった。

地政学リスクは金利低下要因だが、ウクライナを巡っては独ロを結ぶガスパイプライン「ノルドストリーム2」の問題もあり、供給制約を通じたインフレによる金利上昇要因となる可能性もある。

野村証券のチーフ金利ストラテジスト、中島武信氏は、14日の市場では、日銀が強い金利抑制姿勢を示したことで、いったん金利上昇は止まるだろうとしながらも、「世界の債券マーケット全体が、インフレ高進を背景とした世界的な金利上昇局面の中にある。円債金利が低下傾向に転じる可能性は大きくない」との見方を示している。

海外からの金利上昇圧力が高まった場合、日銀は長期金利と短期金利を目標水準に誘導するイールドカーブ・コントロール(YCC)政策を採る限り、動かざるを得なくなる。

<輸入インフレのリスク>

日銀には昨年3月に導入した「連続指し値オペ」という、さらに強力な金利上昇抑制手段もある。それ以外にも、臨時オペや買い入れ額の増額など、日銀は金利上昇抑制の「ツール」を豊富に有する。市場では「日銀が動けば金利上昇は止まる」(国内証券)との声が多い。

しかし、日銀がオペで国債を大量に購入すれば別の問題を生じさせかねない。円安による輸入インフレだ。国債の大量購入が金融緩和の強化と受け止められれば円安要因となる。円安の功罪は議論が分かれるところだが、円安による輸入物価上昇が消費者の不満につながれば、日銀を難しい立場に追い込むおそれもある。

実際、10日に日本銀行が「指し値オペ」を通知後、外為市場では円安が進んだ。「そうした形で進む円安は、国民の間で円安を通じた物価高懸念を高め、他の中央銀行と異なり金融政策の正常化を行わない日本銀行の政策に対する強い批判へと発展しかねない」と、野村総合研究所のエグゼクティブ・エコノミスト、木内登英氏は指摘する。

前回、日銀が「指し値オペ」を実施したのは2018年7月。日銀の金融正常化への警戒感が市場で高まる中、一度の「指し値オペ」で金利上昇は止まらず、結局、黒田東彦日銀総裁は長期金利の変動幅について、プラスマイナス0.1%の倍程度を想定していると述べ、事実上のレンジ拡大となった。

今回、世界中でインフレが止まらず、各国の中央銀行が利上げやタカ派に傾斜する中で、日銀の政策修正を「海外勢はかなり本気で意識している」(外資系証券)という。市場のリスク選好度が回復すれば、再び日銀を「試す」展開となる可能性もある。

(伊賀大記 編集:久保信博)