TBS系(JNN)
■「憶測」が「現実」になった夜
6日夜、東京・赤坂の日本料理店から出てきたのは菅前総理の朋友、自民党の佐藤勉前総務会長。ゆっくりと言葉を選びながら記者団にこう語った。
自民党・佐藤勉前総務会長
「皆さん方が憶測を巡らせている、菅前総理の勉強会の段取りを話し合わせて頂いた」 これまで長く永田町で噂されていた「菅前総理の勉強会」の立ち上げが公の場で発表された瞬間だった。この日の酒席の相手は二階派の幹部、武田良太前総務大臣。佐藤氏は武田氏に菅前総理を中心とした勉強会のまとめ役となることを依頼し、快諾されたことを明かした。「きょうがスタートだ」。佐藤氏の表情には、充実感がにじんでいた。
質問を終えた記者団は、佐藤氏を乗せたタクシーを見送る。その時、事情を知らない1人のカメラマンがつぶやいた。 「勉強会がなんでこんなに注目されているんですか?」
■「非主流派」の結集
その理由は、勉強会のメンバーの顔ぶれにある。佐藤氏によれば、勉強会には武田氏が所属する二階派に加え、森山派、石破グループなどのメンバーが参加する見通しだという。その多くが岸田政権の下で要職から外れ、いわゆる「非主流派」となっているメンバーなのだ。
菅氏を中心に結集し、岸田政権の次を狙うのではないかー。
そんな憶測が政界に広がっている。ただ、菅氏自身の勉強会に対する考え方は、少し違っている。
■政策実現のための勉強会
菅氏は総理退陣後、周囲に勉強会開催への意欲を示してきたが、その主眼は、ポスト岸田を睨んだ政局にはない。 自民党・菅前総理 「縦割りの弊害は沢山ある。そういったものを1つ1つ洗い出して変えていきたい」
勉強会開催の目的は、菅氏が一貫して主張する行政の「縦割り打破」によって政策を実現させることだ。菅氏は観光立国を目指すインバウンド政策や発電用・農業用ダムの水害対策への活用など「縦割り打破」の成果を上げてきた。
総理時代も矢継ぎ早に政策を実行に移し、携帯電話料金の値下げや不妊治療の保険適用などを実現させてきた。菅氏は勉強会の開催によって、温室効果ガスの排出実質ゼロを目指すカーボンニュートラルなど、道半ばの政策を前に進めていきたいと考えているのだ。
■菅氏を中心とした大きな塊への期待
だが、菅氏の意思がどうであれ、菅氏への政治的な力への期待は大きい。 二階派幹部
「これからは菅さんに注目だ。もう1度、総理の座に返り咲くことは考えていないだろうが、菅グループを強化する方向に動くだろう」
菅氏を支持する無派閥議員のグループのメンバーも期待を隠さない。
無党派議員のグループメンバー 「みんな『いつかは菅さんを中心に大きな塊になりたい』って思いはずっとある」 そして、この「大きな塊」を作るにあたって、キーマンのひとりとなりつつあるのが、冒頭の佐藤勉前総務会長なのだ。
■菅氏と他派閥をつなぐパイプ役
今年2月、佐藤氏は、麻生太郎副総裁との関係悪化などを理由に、所属していた「主流派」の麻生派を飛び出した。
菅氏と佐藤氏、この2人の関係は深い。当選同期で「スガちゃん」「ベンちゃん」と呼び合うほどの仲で、菅政権時代は党の総務会長として菅氏を全面的に支えてきた。佐藤氏は麻生派を退会する際に「今後については白紙」と語っていたが、菅氏と他派閥を繋ぐパイプ役として早々に動き出すことになる。
■佐藤氏の辣腕ぶり
佐藤氏は、「非主流派」の二階派(所属議員43人)の林会長代行、森山派(7人)の森山会長と会談を重ねて連携を確認。また、菅氏を支持する参議院の無派閥議員グループ(約10人)の勉強会に講師として参加し、「その時になったらよろしく頼む」と協力を仰いだ。さらに石破グループ(約10人)のメンバーにも声をかけていて、あっという間に規模は膨らんだ。
近く、菅氏を支持する衆議院の無派閥議員グループ(約15人)とも会談を行う予定で、仮に各派閥・グループのメンバー全員が集まることになれば、党内最大派閥の安倍派(94人)に迫る規模になる。
■「主流派」安倍派との連携も視野
「総理候補」河野太郎氏も参加意思 さらに関係者によると佐藤氏は、「主流派」である安倍派との連携も視野に入れているという。
関係者
「安倍さんが岸田さんとずっと一緒にやっていくことにはならないだろう。我々が安倍さんと協調するなら、安倍さんが推す人を担ぎ上げればいい。」
また、8日には、ワクチン担当の大臣として菅政権を支えた河野太郎氏も、菅氏の勉強会に「声がかかったら参加する」意向を示した。菅氏は昨年の自民党総裁選で河野氏を支持しており、今も河野氏を「総理筆頭候補」と公言している。もし、河野氏の参加が実現したら、更なる憶測を呼ぶことになりそうだ。
■ケンカできる「サムライ集団」
菅氏を中心とした勉強会が実現に近づく中、関係者の鼻息は荒い。
関係者
「今回は、ケンカできる連中の集まり、サムライ集団だから。勉強会がスタートしたら戦闘モードまっしぐらだ」
菅氏は7日、TBSのCS番組に出演し、「ウクライナ情勢のなかで急ぐことはない」と述べ、慎重に勉強会立ち上げのタイミングを図る考えを示した。
また、勉強会は「政策を進めるためには絶対に必要だ」と強調したものの、他派閥との連携については「こだわらない」と語った。あくまでも「政策本位」で勉強会を開催する考えは変わっていないようだ。しかし、関係者は次のように話す。
関係者
「いざとなったら菅さんを扇の要にして協力し合うこともあるだろう」
岸田政権の支持率は今のところ堅調だが、長引くコロナ禍やロシアによるウクライナ侵攻による物価高などの難局は続き、夏には参議院選挙が控える。岸田政権が窮地に追い込まれた「その時」、菅氏の本音が分かるのかもしれない。
TBSテレビ報道局政治部与党担当 (10日10:21)