ロシアのプーチン大統領は、旧ソ連による対ドイツ戦勝記念日である5月9日までにウクライナ東部ドンバス地方の制圧を終え、「戦果」として誇示したい考えとみられる。だが、国際社会の軍事支援を受けるウクライナ軍は態勢を整えつつあり、戦線は停滞気味。9日までのドンバス掌握は困難な情勢だ。
防衛省防衛研究所の兵頭慎治政策研究部長は、「ロシア軍が9日までにドンバス地方のドネツク、ルガンスク2州を完全制圧することを優先順位の筆頭に位置付けていることは間違いない」と分析。アゾフ海に臨む要衝マリウポリの製鉄所にウクライナ側の部隊が残っているにもかかわらず、プーチン氏が同地の制圧を宣言したのも、「2州に兵力を投入する思惑からだ」と話す。
これに対しウクライナ側は、米欧の軍事援助により戦力を増強し続けている。米政府は21日、ドンバス地方での地上戦に向け、榴弾(りゅうだん)砲72門と砲弾14万4000発を追加で供与すると発表。ウクライナ軍はより高い火力を手にし、兵力の劣勢を装備面でカバーしようとしている。
ロシア軍の進軍が速いとは言えない。兵頭氏は「(2州掌握は)5月9日に間に合いそうになく、ロシア軍は苦戦しているようにみえる」と指摘。東部2州の完全制圧までに「数カ月単位の時間が必要」とし、ロシア軍の退勢が明確でない中では、局面打開を期した核兵器の使用も想定し難いと語った。
ただロシア軍は、9日までに「戦果」を得られなくても、東部2州にはこだわる公算が大きい。2州を支配下に置けば、マリウポリから南部クリミア半島に至る「陸の回廊」を完成できるためだ。さらにその先には、南部オデッサやウクライナの隣国モルドバ東部の親ロシア派支配地域・沿ドニエストルまでの占領地域拡大がある。
ロシア軍中央軍管区のミンネカエフ副司令官は今月22日、ウクライナ南部を制すれば「沿ドニエストルに抜ける道」を確保可能だと述べた。ロシア軍は、ウクライナ側の黒海への出口をふさぎ、同国を完全に「内陸国化」することを長期的な目標に据えているもようだ。