中国共産党の習近平総書記(国家主席)の「ゼロコロナ」戦略が国民の怒りを買っている。徹底的に新型コロナウイルスを封じ込めるとの方針の下で、家庭のプライバシーが脅かされているためだ。
中国東部の江蘇省徐州市での集合住宅の新型コロナウイルス消毒作業を映した動画が投稿されると、中国版ツイッターと呼ばれる微博(ウェイボ)ユーザーの間に波紋が広がった。この動画は5万回シェアされ、視聴回数は1000万回に達したが、その後、検閲対象となった。「大白」と呼ばれる白衣の防護服を着用する作業員たちは殺菌のため冷蔵庫まで空にさせていた。
防護服集団「大白」、市民の怒りの矛先に-中国の厳格な感染対策
「家庭は中国人にとって最後のフロンティアだ」と投稿したブログ名ウェスト・スロープさんの文章はメッセージアプリ、微信(ウィーチャット)」で10万回閲覧された。「家庭への乱暴な侵入を捉えた動画は、多くの人の心にある最後の防波堤を壊す」と記した。
中国のコロナ対策は世界有数の厳しさだ。上海市は市民2500万人を2カ月近くロックダウン(都市封鎖)下に置いている。市中感染をゼロにするという目標を掲げる同市は集合住宅を隔てる金網のフェンスさえ設置した。
上海市当局は5月10日、感染が確認されたコロナ患者の住居と衣服の消毒は戦略の重要な一部だと確認。だが、私有財産に損害を与える可能性のあるこうした措置は、プライベートスペースの侵害だ。
コロナと共生する方針が世界に広がる中で、中国のゼロコロナ戦略は批判にさらされている。上海の住民はロックダウン中の食料不足に不満を訴え、隔離措置に抵抗。名門、北京大学の学生たちはキャンパスでコロナ対策に抗議した。
中国は5年に1度の共産党大会を年内に控えている。これまでの慣例を破り3期目の総書記就任を目指すとされる習氏が安定維持を指示する傍らで、こうした騒動が発生。厳格なゼロコロナ戦略が景気を悪化させていることから、政権内で不和が生じているとの観測も浮上した。
台湾大学の陳世民准教授(政治学)は「対応のまずさが続けば不満が広がる。微妙な時期に習氏の指導力に対する疑念につながる可能性もある」との見方を示す。
作業員が家に入り込んで消毒するというやり方を、毛沢東初代国家主席が1960年代半ばに始め約10年続いた「文化大革命」時の私有財産略奪と比較する向きもある。ネットユーザーの1人は「われわれが気付かないうちに、あの10年が再び始まったのだろうか。それとも、今回は10年以上にわたって続くのだろうか」と投稿した。
別のユーザーは「こうした浄化運動が10年続くとしたら、われわれ父親の世代があの10年間に抱いた気持ちを恐らく理解できるだろう」とコメント。「実のところ、彼らが経験した不幸はその10年間に限定されず、一生続いた」と指摘した。
上海ロックダウンの混乱、責任取るのは誰か-習氏権力の強さを占う
エルサレム戦略安全保障研究所のトゥビア・ゲリング特別研究員は、毛沢東時代の運動と習氏のゼロコロナ戦略がもたらす問題には類似点があるとみている。
ロックダウンで外出が制限され食べ物不足に苦しめられた人々は、1950年代後半に始まった社会主義建設の急進的試み「大躍進」を連想。大飢饉(ききん)を招き、多くの国民を餓死させた政策だ。コロナ撲滅を名目とする医療従事者によるペット処分を目にすれば、大躍進政策でスズメなどの徹底駆除を目指した「四害駆除運動」も脳裏に浮かぶ。「公衆衛生の観点から意味がない場合でも、何もかも消毒する」と同研究員は話している。
原題:Xi’s Covid Policy Crosses a Line With Invasive Home Disinfection、
Video Shows Beijing College Students Protesting Covid Curbs (1)(抜粋)