7日に決定した経済財政運営の基本指針「骨太の方針」をめぐり、岸田文雄首相と安倍晋三元首相が最終段階で異例の攻防を繰り広げた。歳出拡大に一定の歯止めをかけたい現首相と、機動的な財政出動のためには借金もいとわない元首相。防衛費増額など財源が焦点となる参院選後の2023年度予算編成に向けて火種を残した。

 ◇怒号

 「ふざけるな。誰がこんなこと説明もなく書いたんだ」。3日の自民党政調全体会議。22年版の骨太の原案に入った一節が政府側から説明されると、安倍氏周辺の「積極財政派」から怒号が飛んだ。やり玉に挙がったのは「本方針および骨太2021に基づき、経済・財政一体改革を着実に推進する」との文言。それまで党幹部のほとんどが気づいていなかった。

 21年版の骨太には歳出改革の努力を3年間続ける方針が明記された。これへの言及は積極財政派にとり「後退」と映る。

 安倍氏は対外的な発信も続けた。4日の講演では「金融緩和を続けながら財政(出動)でインフレをカバーしていくことが正しい道だ。日本国債は信用があるので心配ない」と強調。陰に陽に圧力をかける姿に、首相官邸幹部は「一線を退いた人は発言を控えるべきなのに」と憤った。

 ◇玉虫色

 週明けの6日、首相はついに腰を上げた。高市早苗政調会長を官邸に呼ぶと、「歳出改革の文言は落とさない。これで了承を取り付けてほしい」と指示。積極財政派が問題視した文言は残った。党側にあまり注文を付けない首相には珍しい対応。周辺は「週末に一人で決めた」と明かす。

 ただ、首相は歳出改革に関して「重要な政策の選択肢を狭めることがあってはならない」とのただし書きを骨太に盛り込むことは認めた。これは安倍氏周辺が「積極財政を担保できる」と考える一文。双方が有利に解釈し得る余地を残した。

 ◇溝

 防衛力の抜本強化について、22年版の骨太は安倍氏の求めに応じ、年限として「5年以内」を明記。規模に関しては北大西洋条約機構(NATO)諸国が国内総生産(GDP)比2%超の国防予算を目指していることに触れた。

 ただ、現在GDP比1%弱の防衛費を5年間で2%にするには、23年度以降、毎年1兆円程度上乗せしていく必要がある。首相は7日の経済財政諮問会議で、防衛費の扱いについて「内容、金額、財源の3点セットで議論していく」と語った。

 予算額で「国家意思」を示すべきだとする安倍氏に対し、首相は「必要な予算の積み上げ」を主張。財源に関しても、安定的な確保を原則とする政府と赤字国債発行を説く安倍氏の溝は深い。

 「圧力は今後も続くだろう」。政府関係者がこう漏らすように、両者の攻防は参院選後に見込まれる内閣改造・自民党役員人事も絡んで強まる見通しだ。