日銀は16日、17日の両日にわたって金融政策決定会合を開催した。そこで以下のような決定を行った。<時事ドットコム>
- 長短金利操作付き量的・質的金融緩和の維持を賛成多数で決めた
- リスク要因として金融・為替市場の動向や経済・物価に与える影響を「十分注視する必要がある」
会合後の記者会見における黒田総裁の主な発言
- 「賃金の上昇を伴う形で(2%の)物価目標を安定的・持続的に実現できるよう金融緩和を実施していく」
- (国内景気の現状について)「新型コロナウイルス感染症や資源価格上昇の影響などから一部に弱めの動きも見られるが、基調としては持ち直している」
- 「賃金の本格的な上昇を実現するには、金融緩和を粘り強く続けることで経済をしっかりとサポートしていくことが必要だ」
- 「最近の急速な円安は経済にマイナスで望ましくない」
- 「金融・為替市場の動向や、その経済・物価への影響を十分注視する必要がある」
- 6日の講演で「家計の値上げ許容度が高まっている」と発言し批判を浴びたことについて
「全く適切でなかったと考えており撤回した」
「最近の物価上昇が家計の行動に及ぼす影響について一層きめ細かく把握し、丁寧な情報発信に努めたい」 - 17日の東京債券市場では日銀に上限引き上げを迫る投機的な動きで長期金利が一時0.265%に上昇した
黒田総裁は「緩和効果が弱まる」と上限の変更を否定した。
緩和政策の継続は適切か?
世界の中央銀行が相次いで金融引き締めに踏み切る中で、一部市場関係者の間には「部分的な政策の見直しがあるかもしれない」との見方が広がっていた。結果は見事に外れた。黒田総裁は頑なまでに大規模緩和政策の継続にこだわった。
これが正しい決定なのか、判断ミスなのか、後世史家の結論を待つしかない。ただ、今回の決定には気になる点がある。それは黒田総裁自らアクセルに足をかけながら同時にブレーキを踏み込んでいることだ。
焦眉の急ともいうべき急激な円安について総裁は次のように発言している。
「最近の急速な円安は経済にマイナスで望ましくない」と。
円安の原因の一つが大規模緩和政策に伴う金利の押さえ込みにある。日銀はイールドカーブ・コントロール(YCC)付き量的質的金融緩和政策を維持することによって、金利を押さえつけている。
世界中の中央銀行がインフレを警戒して政策金利の引き上げに踏み切っている。そうした中で日銀は、「景気を下支えるため」に緩和政策を継続すると公言している。これが急激な円安の原因になっている。
黒田総裁は「急速な円安は経済にマイナス」との認識を示しながら、YCCを使って円安の原因を作り出している。これは単刀直入に言って「矛盾」だ。喩えるならブレーキをかけながらアクセルを踏み込んでいるようなものだ。車の運転でブレーキを踏むにはアクセルから足を離す必要がる。その逆もまた然り。両方同時には踏み込めないのだ。
この矛盾が実体経済にどのように影響するか、現時点では判然としない。だが、黒田日銀は目先的に無理な政策を追求しようとしていることは間違いない。17日の債券市場では長期国債の利回りが0.265%と日銀が定める上限(0.25%)を上回った。おそらくマーケットは来週以降、この矛盾につけ込もうとするだろう。当面はここが焦点だ。