ロシアの極東サハリンで進められている石油・天然ガス開発プロジェクト「サハリン2」における日本の権益が中ぶらりんの状態になった。プーチン大統領が事業主体を新たに設立するロシア企業に変更するよう命じる大統領令に署名したためだ。資源に乏しい日本はロシアに天然ガスを依存しており、岸田文雄首相がロシア政府との決別に消極的なのはそれが理由だ。日本は代替燃料の確保に必死に取り組んでいるが、世界的なエネルギー危機は、日本がロシア産燃料への依存をやめるのが難しいことを意味している。
1.日本がこれまでに講じた対ロシア制裁の中身は?
ロシアによる2月24日のウクライナ侵攻後、日本は欧米諸国の対ロシア制裁に同調した。半導体などの輸出規制を発動し、オリガルヒ(新興財閥)の一部やその家族も対象とした制裁も科した。ロシアは日本での国債発行も禁止された。日本はウクライナ難民を受け入れている。ロシア軍によるウクライナでの戦争犯罪の疑いが報じられた後、日本は4月に欧州連合(EU)および他の主要7カ国(G7)諸国に追随し、ロシア産石炭の輸入を禁止する方針を発表。岸田首相は早急に代替策を確保する考えを示したが、時間枠は提示しなかった。
2.天然ガスの場合はどうか?
日本は国内に資源が少ないため、天然ガスについては線引きしていた。三菱商事や三井物産といった日本の商社は、サハリン2プロジェクトに計22.5%出資しており、そこで生産されたガスの大部分が日本に供給されている。岸田首相は「エネルギー安全保障上、極めて重要なプロジェクト」と呼んでおり、撤退しない方針を表明。日本の液化天然ガス(LNG)輸入の9%を占めるロシア産LNGについて直接的な行動を避けている。
3.プーチン大統領の行動は所有権に何を意味するのか?
プーチン大統領は事業主体の移管に関する6月30日の大統領令署名の背景として、国益と経済安全保障に対する脅威に言及した。声明文によると、ロシア政府が新会社を設立した上で、現在の株主は1カ月以内に株式を取得することに同意するかどうかを知らせる必要があり、出資しない場合には十分な補償が受けられない可能性がある。この措置により、日本はサハリン2の権益の放棄を余儀なくされるか、重要なLNG供給の混乱を招く恐れがある。さらに、ロシア政府は石油・天然ガス開発事業「サハリン1」やLNG開発事業「アークティック2」といった日本が共同出資するプロジェクトでも同様の命令を打ち出す可能性がある。
4.他のサプライヤーはロシア産LNGを代替できるのか?
その可能性は短期的にはない。世界の天然ガス市場は供給不足に見舞われているためだ。ロシアが欧州向けのパイプライン供給を抑制しているためLNG需要は急増しており、米国の主要LNG輸出施設の一つは6月に発生した火災の影響で数カ月は停止状態が続く。燃料確保に向けたアジアと欧州の間の競争激化で、LNGのスポット価格はこの時期としては記録的高値圏で取引されている。さらに、サハリン2は日本に最も近いLNG輸出施設であるだけに、新たな施設からの輸入となると、LNGタンカーをより長期の旅程に投入することになり、既に負担がかかっているサプライチェーンを行き詰まらせることになる。
5.これは日本にどんな意味を持つのか?
日本は異常気象による電力需給の逼迫(ひっぱく)や老朽化した発電所の退役、力強く成長しているものの予測不可能な再生可能プロジェクト、さらに原子力発電所の再稼働延期といった厳しい状況に見舞われている。LNGの出荷に混乱が生じれば、電力供給にさらに負担がかかり、国内の一部地域で停電を招くリスクがある。そして、代わりの高価なLNGを調達する場合、家庭や企業の電気料金が上昇し、インフレ懸念も強まる。
6.代替の燃料はどうか?
LNG以外に選択肢は多くない。石炭市場はタイトで、アジアのスポット価格は記録的な高値で取引されている。さらに、日本は他のG7諸国と足並みをそろえロシア産石炭の輸入禁止に動いている。こうした状況から、原発の再稼働を加速させるよう日本政府に圧力がかかるかもしれないが、東京電力福島第一原子力発電所の事故後に策定された安全性の規則の変更や、地元自治体からの支持増加がなければ、実現は難しい。
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原題:Why Japan Will Struggle to Do Without Russian Energy: QuickTake(抜粋)