[東京 10日 ロイター] – 岸田文雄首相が10日に断行した内閣改造と自民党役員人事は、一見すると地味に見えるが、したたかな政治手法が垣間見える。首相が重視するポストにはベテランを配して難局にあたる一方、各派から要望のあった「入閣待望組」もバランスよく起用。「二重構造」とも言える人事を行った。 岸田文雄首相が8月10日に断行した内閣改造と自民党役員人事。最初に対処することになるのは2022年度第2次補正予算の編成であり、そこで注目されるのは萩生田光一新政調会長(写真)だ。
人心一新後に待ち構える懸案の中で、最初に対処することになるのは2022年度第2次補正予算の編成だ。自民党内には20兆円規模の財政支出を求める声があるが、急速な財政悪化を懸念する岸田首相は別の道を探るとみられる。そこで注目されるのは萩生田光一新政調会長だ。萩生田氏が財政拡張と一線を画す対応を示し、首相官邸と連携して補正予算案の編成にあたることになれば、岸田政権における脱アベノミクスの方向性が明確になる可能性がある。
<重視された安保・円安と物価高・コロナ>
今回の改造人事で留任となったのは、林芳正外相、鈴木俊一財務相、斉藤鉄夫国土交通相、山際大志郎経済財政・再生相、松野博一官房長官の5人。さらに浜田靖一防衛相と加藤勝信厚生労働相は過去に同じポスト経験している。この7人がこれからの懸案処理で岸田首相が重視していく閣僚とみられる。
緊迫する台湾情勢などの安全保障問題、円安と物価上昇、新型コロナウイルスの感染拡大などが当面の重要課題とみられ、上記の7人が担う責任は重い。年末に向けて対応を誤れば、足元で低下している内閣支持率が一段と下がることになりかねない。
他方、的確に政策対応を積み重ねていけば、支持率が反転上昇するきっかけになる。岸田首相はそのシナリオにかけた可能性がある。
同時に各派のバランスを考えて、入閣待望組をその他のポストにつけ、党内のバランスも取ってどこからも不満が出ないようにしたとも見える。この「二重構造」的な人事から岸田首相の巧妙な政治手腕が透けて見えると指摘したい。
<2次補正編成、萩生田政調会長の試金石に>
内外の懸案は山積みになっているが、最初にクリアしなければならないのは、2022年度第2次補正予算の編成だ。直近の日本経済は、物価高で実質所得が前年比マイナスに転落し、個人消費の先行きは決して明るくない。
また、世界景気の減速から後退への懸念がマーケットでささやかれる中で、日本の外需が成長をけん引する姿も描きにくい。そこで需給ギャップのマイナスを一気に埋めるべきだと自民党内の財政拡張派のメンバーは強く主張している。20兆円規模の「真水」が必要という声が一定の支持を得ている。
だが、これまで行われてきた大規模な財政支出が日本の潜在成長率の引き上げに結びついて来なかったことに対し、疑念を持つ向きも自民党内には存在する。足元の潜在成長率は0.1─0.2%に低下しており、従来と同様の財政支出を繰り返しても同じ結果になりかねないとの立場だ。
岸田首相は経済成長と財政再建の両立に理解を示しており、現代貨幣理論(MMT)的な考え方とは距離を置いている。補正予算編成でも、財政赤字の急膨張につながるような赤字国債の大増発にはくみしていないと思われる。
そこで注目されるのが、政調会長に就任した萩生田氏の存在だ。前政調会長の高市早苗氏とは異なったスタンスを示し、ワイズスペンディング的な支出を重視するようなら、自民党内における政策立案過程に大きな変化が生じるだろう。萩生田氏が岸田首相の意をくんで財政支出の大膨張に異を唱えれば、補正予算は相応の規模に収まる可能性がある。筆者は、10兆円程度で着地する結果になれば、今回の人事は岸田首相の意図がかなり達成されたことになるとみている。
<支持率アップなら、年内の衆院解散も視野か>
9月27日の安倍晋三元首相の国葬に伴って、弔問外交も展開されることになるだろう。岸田首相の外交的な立場が国民からどのように映るのかははっきりしないが、過去の例をみれば、積極的な首脳外交が支持率の上昇につながる可能性はある。
また、年末に向けて岸田首相の看板政策・新しい資本主義の肉付けができれば、岸田首相の周辺が年内の衆院解散を進言することもあると予想している。今回の人事で実力者の森山裕氏を自民党の選挙対策委員長に起用したのも、したたかな岸田首相が衆院選を視野に入れているのではないか、との観測を生むことになるだろう。
首相の専権事項である解散権をチラつかせることが、政権の求心力を最も強くさせると岸田首相は自覚していると思う。
●背景となるニュース
・経産相に西村康稔氏、防衛相に浜田靖一氏=第2次岸田改造内閣