神奈川・負担減を評価/島根・正確性期し継続

 政府が24日に公表した新型コロナウイルス感染者の「全数把握」の見直し方針について、自治体の受け止めは分かれた。導入は都道府県知事の判断に委ねられたことに、全国一律での対応を求める声も上がった。医療機関や保健所は負担軽減に期待を寄せる一方、新たな混乱に懸念を抱く。

◆知事

 「全数把握によって医療がさらに 逼迫ひっぱく する状況だった。見直しは高く評価したい」。神奈川県の黒岩祐治知事はそう歓迎する。

 同県は、すでに基礎疾患のない自宅療養者を健康観察の対象から外すなど独自の対策をとっている。黒岩知事は厚生労働省から運用開始の日程が示されれば、速やかに始める意向だ。

 一方、島根県は全数把握を継続する考えを示す。丸山達也知事は「行政としては感染者を正確に把握し、対策を練らなければ、感染拡大を防げない」と話した。

 東京都や大阪府は、制度の詳細を見極めて判断する方針だ。都の小池百合子知事は「すぐに手を挙げる状況には至っていない」と述べるにとどめた。

政府方針では、知事の判断で届け出の対象を高齢者ら重症化リスクの高い人に限定することが可能となる。都内の保健所幹部は「導入すれば、届け出の対象者は2割程度になる」と話す。ただ、低リスクの感染者を保健所が把握できなくなり、自宅療養中に容体が急変した場合に行政の対応が遅れる恐れがある。都幹部は「もし亡くなった場合、『重症化リスクなし』と判断した医師が責任を取らされることにもなりかねない」と懸念する。

 導入の判断が自治体任せとなったことに注文や批判も相次いだ。

 宮城県の村井嘉浩知事は「隣県とやり方がバラバラなのはナンセンスだ」と批判。埼玉県の大野元裕知事は「感染状況の把握は感染症法における基本的なルール。自治体の判断に任せるのではなく、国の責任において全国統一で行う方がよい」とコメントした。

◆医療機関

 医療現場からは、見直しに期待の声が上がる。

 コロナ患者を診療する小児科「かずえキッズクリニック」(東京都渋谷区)の川上一恵院長は「寝る時間を削って届け出の作業に追われていたが、導入されれば無理を続けずに済む」と期待する。

 クリニックでは1日あたり十数人の患者を陽性と認定してきた。国の届け出システム「HER―SYS(ハーシス)」への入力は診療時間の終了後、川上院長が一人で行うが、感染者1人に10分程度かかる。自宅療養する軽症者の健康観察も含めると、3~4時間を要することがある。

発熱外来の 一ノ名いちのな 医院(大阪市大正区)の岸淳之事務長(52)が心配するのは、自宅療養者の健康観察のあり方だ。今は大阪府から委託を受けて健康観察を行うが、仮に委託がなくなった場合、「容体が急変した場合の対応が遅くなるのではないか」と不安も感じている。

◆保健所

 導入後の混乱を心配する保健所もある。

 1日約600人の感染者が出ている東京都港区では、保健所が一部を医療機関に代わってハーシスに入力する。さらに自宅療養者との連絡なども担っており、保健所の担当者は「入力が重症化リスクのある人に限定されれば、業務量は目に見えて減るはずだ」と話す。

 ただ、感染者のうち半数が区外在住で、今後、全数把握を継続する自治体とやめた自治体との間で、感染者の情報共有が難しくなるのではないかと懸念する。同保健所の担当者は「現場には詳しい制度の説明はなく、困惑している」と話す。