ウクライナ侵略による日露関係の悪化や燃油の高騰、サンマ、イカといった主要魚種の不漁――。味覚の秋が深まる中で、漁業者の苦境が深刻さを増している。(森田啓文、中村俊平)

太平洋での漁から戻り、サンマを水揚げする乗組員ら(9月29日午前5時48分、北海道根室市の花咲港で)=森田啓文撮影
太平洋での漁から戻り、サンマを水揚げする乗組員ら(9月29日午前5時48分、北海道根室市の花咲港で)=森田啓文撮影

 サンマの水揚げ量12年連続日本一を誇る北海道根室市の花咲港。9月29日は午前2時半頃から大小13隻の船が、4時間近くサンマの水揚げを続けた。しかし、体長は平年より1~2センチ小さいものが目立った。大型船(199総トン)の漁労長は「今年も魚群は薄い。捕れても10年前なら加工用だった細いサンマばかり」と白いため息をついた。

 花咲港のサンマ水揚げ量は、2010年には9月末で3万2000トンを超えていた。近年は記録的不漁が続き、今年は同じ9月末で3000トンに満たない。「10月後半に入っても豊漁に転じる気配は見られない」と漁業情報サービスセンター(東京)の担当者は言う。

許可証なし

 日露関係も影を落とす。別の船の乗組員は「今年はロシアの200カイリ水域での『許可証』がないから、その近くの公海に魚がいても近づけない。間違って 拿捕だほ されたら大変だ」と嘆く。

全国さんま棒受網漁業協同組合(東京)は毎年、ロシア当局に申請し、同国の水域での操業許可証を受け取って日本の船約100隻に渡している。それが今年は、経済制裁でウラジオストクへの国際宅配便が使えないため書類を送れずにいる。同組合の大石浩平専務理事は「貴重な漁獲を確保するためにも打開したい」と話す。同様の事態は、日本海のイカ釣りでも起きている。

 「自助努力の範囲を超えている。このままではやっていけません」。今月13日、全国漁業協同組合連合会が都内で開いた緊急集会では、漁業者が国会議員らにこう訴えた。

 水産庁によると、原油価格(月平均)は09年以降1リットル14円(20年4月)~70円(13年12月)で推移してきた。だが今年3月以降、同81~95円を行き来し、燃油代の負担が増している。養殖業では生産コストの7割をエサ代が占めるが、8月、配合飼料価格は2~3割上がった。同庁は、燃油や飼料の高騰に対する支援強化を検討している。

「心苦しい」

 影響は食卓にも及ぶ。東京都豊島区の鮮魚店「 魚卯うおう 」では、取り扱うサケや貝など約200種類のほぼすべてで昨年よりも仕入れ価格が上昇した。店主(73)は「一部は売値にも転嫁せざるを得ず、庶民の味を売っている魚屋としては心苦しい」。買い物に訪れた同区の会社員(46)は「前まで2匹買っていたのを1匹にすることも増えた」と話す。

日本での1人あたりの魚介類消費量は01年度をピークに減り続け、11年度以降は肉類を下回っている。一方で「庶民の味方」と呼ばれてきたサンマやイカの値段は、近年の不漁に伴い急上昇している。

 北海学園大の浜田武士教授(水産政策)は「漁業経営の悪化で供給力が低下すれば、値上がりや売り場縮小を招き、消費者の魚ばなれを助長する恐れがある。『魚食文化』を守るためにも思い切った経営支援が必要な局面だ」と指摘する。