[ロンドン 26日 トムソン・ロイター財団] – 英国とイランの二重国籍を持ち、反体制運動を企てた疑いでイランに6年間拘束されていたナザニン・ザガリ・ラトクリフさん(43)は26日、自由化を求めるイランの抗議活動が「引き返せない」地点に到達した、との見方を示した。トムソン・ロイター財団の年次イベントを前に語った。 

ラトクリフさんはプロジェクトマネジャーとして働く同財団の職員。英国がイランに多額の債務を返済した後、今年3月に解放され、現在は家族と共にロンドンに住んでいる。

イランでは現在、スカーフのかぶり方が不適切だとしてマフサ・アミニさん(22)が風紀警察に拘束され、急死した事件に抗議するデモが6週間続いている。

ラトクリフさんは「怒りは何年も何年も前から蓄積」しており、アミニさんの死が「爆発の契機」になったと指摘。「私たちは1つの目標に向かって集結する。それは自由だ。今回の抗議活動は極めて強力であり、これほどの団結を目にしたのは初めてだ」と語った。

今回の運動では「世代の変化が非常に大きな役割を果たしている」とし、「ソーシャルメディア、TikTok(ティックトック)、インターネットの世代だ。彼女ら、彼らは世界と自らの権利について、過去の私たちよりも良く知っている。過去の私たちよりもずっと勇気がある」と続けた。

<独房監禁>

ラトクリフさんは2016年、両親に会うために訪れたイランの首都テヘランの空港で拘束され、一緒にいた生後1年10カ月の娘ガブリエラさんと引き離されて狭い独房で9カ月を過ごした。その後、体制転覆を企てたとして有罪判決を受け、今年3月に解放されるまで禁錮が続いた。

テヘランのエビン刑務所にいる間、女性に髪を隠すスカーフの着用を義務付ける規則に抗議して長年の禁錮刑を言い渡された女性に何人も会ったと、ラトクリフさんは言う。

現在の抗議活動は労働組合が大規模ストライキを組織するなど、支持が広がっているため過去のデモよりも政府にとって大きな脅威になっているとラトクリフさんは話す。「ここからは引き返せない」とし、「もはやスカーフの着用義務だけの問題だけではなくなった。非常に長い間、政府が人々に課してきた抑圧的な規則の問題でもある。失業、ライフスタイル、情報とインターネットへの自由なアクセスの問題でもある」と訴えた。

<ネット遮断に対抗を>

イランは現在インターネットを遮断し、写真投稿アプリ「インスタグラム」や対話アプリ「ワッツアップ」へのアクセスを禁じている。人々がデモを計画したり、外部世界の画像を共有したりするのを阻止するためだ。

「ネットの遮断は、人々を独房に入れるのとまったく同じことで、規模が大きいだけだ」とラトクリフさん。「彼らは人々を怖がらせ、忘れ去られた存在だと感じさせたいと思っている」と説明した。

ラトクリフさんは同イベントで講演し、イラン市民が「自由な情報」に接することができるよう、国際社会がイラン政府の監視・検閲に対抗する措置を講じてほしいと訴えた。イランは全体的な制裁に対処するすべを学んでしまったため、特定の個人に対する制裁を行うべきだとも主張した。

米国は26日、ネットの検閲、遮断に関与したイランの当局者や関連団体を制裁対象に指定した。この中には、政治犯が収容されるエビン刑務所の監視員らも含まれる。

ラトクリフさんは同イベントで、今なお同刑務所に監禁されている多くの友人の名前を、声を震わせながら読み上げた。

自身は今、夫と娘と共にロンドンに住んでいるが、友人が投獄されたままでは完全に自由な気持ちになれないと強調。「自由というのは優れて相対的な概念だ。刑務所から出て家族のいるロンドンに戻れたという意味では私は自由だが、自分の一部はイランに残してきた」とし、「母国が自由になるまで、私は完全に自由にはなれない」と語った。

(Emma Batha記者)