Bloomberg News
- 待遇面巡りフォックスコン従業員が鄭州市で抗議、警備部門と衝突
- フォックスコンの苦闘、中国進出の他社も対岸の火事ではない公算
米アップルのスマートフォン「iPhone」の生産を請け負う台湾企業、フォックスコン・テクノロジー・グループが中国の河南省鄭州市に設けている製造施設で、待遇面を巡る従業員の抗議活動が22日遅くに起きた。その時、特別ボーナスに誘われて仕事に復帰しようとしていたシアオ・ハンさんは1週間に及ぶ隔離を終えたばかりだった。
外部との接触を遮断する「バブル」方式で生産を続けるため、同工場で働く約20万人の大半はわずかばかりの粗末な食料とごみがたまった社員寮で、既に何週間も過ごすことを余儀なくされていた。
こうした従業員に状況が改善していると納得してもらうため、フォックスコンは割増賃金などを約束していたが、来年3月半ばまで勤務を続けていることが支払い条件と知った従業員のうち数百人が抗議。警備部門を押しのけ、警察とも衝突した。
シアオさん(30)は「全くの混乱状態だった」と今回の抗議活動を振り返り、同僚の一部は衝突で負傷したと説明。「これほどの事態に陥るとは思いもよらなかった」と語る。
シアオさんは今回の抗議行動の前でさえ、耐えられない状況になっていたと打ち明ける。不衛生で悪化する一方の周囲の環境に耐えかね、施設から離脱する従業員が先月相次いだが、10年余りにわたって中国の組み立てラインでiPhone製造に携わってきたシアオさんもこれに加わっていた。
当時も食料不足や生活環境を巡り、従業員と警備担当者の衝突があった。だが、特別ボーナスが魅力的に映ったシアオさんは今月半ばに生産施設に戻っていた。
23日にピークを迎えた今回の抗議活動は、会社側の取り組みがいかに不十分だったかを浮き彫りにする一方、ますます強まる「ゼロコロナ」政策の無益さも露呈することになった。
非公開情報だとして匿名を条件に話した事情に詳しい関係者1人によると、フォックスコンは従業員の管理で誤りがあったと認めつつ、予測不能の政策によって食事の手配や維持管理がほぼ不可能になったと地方当局者を非難した。地方政府当局とフォックスコン担当者にコメントを求めたが、返答はなかった。
フォックスコンが見舞われる苦闘は、中国が進める政策の範囲内で操業を余儀なくされる他社にとっても、対岸の火事ではないことを示唆している。
ナティクシスのアジア太平洋担当チーフエコノミスト、アリシア・ガルシアエレロ氏は「フォックスコンのような事例を受け、どの企業も『当社にも起きるのか』と自問している」と指摘。「製造業に頼る企業なら、代替案を検討しなければならない。コストはかかるが、中国頼み一辺倒で同国が開放しない場合よりは代償は小さい」と語る。
「iPhoneシティー」としても知られるフォックスコンの鄭州工場は最新iPhone14モデルの約80%を生産しており、アップルにとっては事業の継続が極めて重要だ。アップルは今月、年末商戦を控える中でiPhone14のハイエンドモデルの出荷が当初想定を下回る見通しだと発表した。
ティム・クック最高経営責任者(CEO)は代替策を練っている。フォックスコンなど組み立てパートナーはインドでこれまでの世代と比較して多くのiPhone14を生産。輸出拠点として同国を活用し始めている。
フォックスコンはまた、ベトナムやタイで事業を拡大しており、習近平指導部のコロナ政策がいかに中国の経済成長を脅かしているかを示している。
今回の抗議活動後、また荷物をまとめているシアオさんの姿があった。今後も鄭州にとどまるが、他に仕事を探すという。「雇用してくれるのはフォックスコンだけではないからね」とシアオさんは話した。
(原文は「ブルームバーグ・ビジネスウィーク」誌に掲載)
原題:Apple’s Reliance on China Grows Perilous With iPhone City Chaos(抜粋)