今年の最大の注目点は春闘。物価を上回る賃上げが実現するかどうか、日本経済の将来を左右する分岐点になる。岸田首相も今年最初の記者会見で、物価の上昇率を上回る賃上げを企業に要請した。首相の要請は単なるお願いベースで迫力に欠けるが、経済団体が合同で行なった賀詞交換会(5日)では、大企業の幹部から力強い発言が飛び出した。賃上げをめぐる環境に若干だがフォローの風が吹き始めた気がする。
経団連の十倉雅和会長(住友化学会長)は賀詞交換会後の共同会見で「物価高に負けない賃上げを会員企業にお願いしている。これはもう企業の責務」だと語った。これまで賃上げに消極的だった経団連が、「賃上げは企業の責務」と踏み込んだのだ。急激な物価上昇が企業経営者の認識に楔を打ち込んだのだろう。物価に連動して賃金を上げなければ景気が後退する。こんな単純な原理原則に経営者サイドもようやく気がついた。
極め付けはサントリーの新浪社長だ。「今までと違って賃上げはマスト」であり、「企業の生き残りにつながるぐらいの重要な問題」と強調した。その上で「昇給とベースアップを合わせて6%超をめどに組合と交渉する」と宣言したのだ。大企業だから言える発言だが、それでも企業サイドにこうした認識が出てきたこと自体、デフレの壁をぶち破る蟻の一決になる可能性がある。風向きが変わってきた感じがする。
大企業に次いで「マストな賃上げ」が中小企業に広がれば、日本がここ30年にわたってもがき苦しんできたデフレの壁を突破できるかもしれない。そのためには中小企業は賃上げ分の何割かを製品価格に転嫁し、それを元請けや大企業が受け入れることだ。経済の好循環に向けて企業、とりわけ大企業の経営者は今年、極めて重要な“決断”を求められることになる。