- いずれ誰も金利の将来経路を予想できなくなる-BNP証の河野氏
- 市場の発するサイン読み取りができなくなる-いちよし証の愛宕氏
日本銀行が打ち出した共通担保資金供給オペの拡充により、市場原理で動いていたスワップ金利にも日銀の影響が及んでいる。スワップが本来持っている金利予想といった市場機能の喪失を懸念する声が市場参加者から出ている。
スワップ金利は日銀金融政策決定会合前、一時1%超まで上昇。日銀がイールドカーブコントロール(長短金利操作、YCC)を撤廃した後の金利水準が意識され、0.5%付近で推移していた長期金利の2倍に達した。18日の決定会合で共通担保オペ拡充が発表されたことを受け、スワップは一時0.7%台と長期金利を上回る幅で低下した。
日銀が国債を直接購入して長期金利を下げるYCCと違い、共通担保オペは資金供給を受けた金融機関にスワップ市場での取引を促して金利を低下させるのが狙いだ。日銀の関与は間接的だが、黒田東彦総裁は18日の会見で、金融機関がスワップその他で裁定行動をして長めの金利低下を促すことができると述べた。
BNPパリバ証券の河野龍太郎チーフエコノミストによると、共通担保オペ拡充は市場参加者からスワップ版YCCと皮肉を込めて呼ばれている。河野氏は、スワップ金利の人為的な押し下げはスワップが持つリスクヘッジ(回避)機能低下につながると指摘。「いずれ誰もこの市場で金利の将来経路を予想できなくなる」と懸念する。
いちよし証券の愛宕伸康チーフエコノミストも、日銀がスワップ金利まで操作しようとすると「市場が発する将来金利についてのサインを読み取ることができなくなる」と述べた。野村総合研究所の木内登英エグゼクティブエコノミストは「そうした操作自体が市場の自由な取引を阻害し、市場機能を低下させてしまう」と言う。
限界か
スワップは変動金利を固定金利と一定期間交換する取引で、外国人投資家が主導している。金利上昇を予想すれば固定金利を支払って変動金利を受け取り、金利低下を予想すれば逆の取引をする。無担保コール翌日物金利の将来予想を反映するオーバーナイト・インデックス・スワップ(OIS)はその中心で、金利変動リスクを避ける目的でも利用される。
10年物スワップ金利は20日に下げ止まった後、再びじわじわと上昇し、26日時点で0.8%台まで反発している。バークレイズ証券の海老原慎司チーフ債券ストラテジストは、金融機関の資産拡大への忌避感や担保の限界から、共通担保オペも「無限大のツールではない。今はまだ効果の余韻が残っているが、少し時間がたてばそれも薄れてくるだろう」と語る。
日銀の大規模な国債買い入れを受けて、新発債を含む10年物4銘柄の日銀保有比率は20日時点で100%を超えた。海老原氏は、YCCの限界を意識する外国人投資家が3、4月の日銀会合に向けて再びスワップの払いに注力する可能性もあり、いずれの会合も政策変更の可能性を警戒する「ライブな会合にならざるを得ない」とみている。
日銀の黒田総裁は市場調節方針と整合的なイールドカーブ形成を促すとして共通担保オペについて「必要に応じて、 さまざまな年限や方式を有効に組み合わせながら実施していく方針だ」と18日の会見で述べている。