[東京 19日 ロイター] – 日銀の植田和男総裁は19日、内外情勢調査会・全国懇談会で講演し、拙速な政策転換により、ようやく見えてきた2%の物価目標達成の「芽」を摘んでしまう場合のコストは「極めて大きい」と述べた。海外経済などの不確実性が高い中、粘り強く金融緩和を継続する方針を強調し、出口に向けた金融緩和の修正は「時間をかけて判断していくことが適当だ」と語った。
植田総裁は、2%の定着を十分に見極めるまで基調的なインフレ率の上昇を待つことに伴うコストは、物価目標達成の芽を摘んでしまうリスクに比べて大きくないとも述べた。
総務省が19日に発表した4月の全国消費者物価指数では生鮮食品を除く総合指数(コアCPI)は前年同月比プラス3.4%になった。植田総裁は、輸入物価の上昇を起点とする価格転嫁の影響が主因との見方を示し、この影響が減衰することで「今年度半ばにかけて2%を下回る水準までプラス幅を縮小していく」との見方を示した。
コスト・プッシュ要因による物価上昇は、実質所得や収益の下押し要因になると指摘。「これを抑制しようとして金融引き締めを行うと、経済や雇用環境を悪化させてしまう」と述べた。家計や企業に別の形で負担が生じるほか、コスト・プッシュ要因が減衰した後は「一段と低いインフレ率がもたらされる」と警戒感を示した。
植田総裁はまた、物価はマクロ的な需給ギャップによって決まると語り、「貨幣的な現象」と主張するリフレ派と一線を画した。
<コロナに紐づけた政策金利の方針、「適切でなくなった」>
日銀は4月の決定会合の声明文で、新型コロナウイルス感染症に紐づけた金融政策の先行き指針を見直し、新型コロナの影響を注視する旨の文言と、政策金利の引き下げバイアスを削除した。
植田総裁は政策金利の引き下げバイアスについて、新型コロナの感染法上の位置づけ変更に加え、感染症によって内外経済・金融市場が影響を受けるリスクが低下したことから「適切ではなくなった」と説明。ただ、内外経済や金融市場を巡る不確実性は極めて高い状況のため「粘り強く金融緩和を継続していくという姿勢は不変だ」と語った。
植田総裁は審議委員時代の2001年、量的緩和政策の導入に関わった。講演では、この政策は短期国債を買って日銀当座預金を供給するという「経済的には性質が近い資産の交換にとどまった」と指摘。「経済に対する刺激効果は限定的なものにとどまった」と振り返った。
<政策レビュー、物価目標見直しは念頭に置かず>
講演後の質疑応答で植田総裁は、過去25年間の金融緩和策を対象とした多角的なレビューについて「あらかじめ議論の範囲を限定することはしていない」と述べた。2%の物価目標を見直す考えがないことを強調し「物価目標の見直しを念頭に政策のレビューを行うことは考えていない」と明言した。
昨年12月、日銀は債券市場の機能を改善し、企業金融の円滑化を図るために長期金利の許容変動幅を拡大した。植田総裁は再度の変動幅拡大の可能性やそのための条件を問われたが「政策の効果と副作用を十分よく比較衡量しながら、イールドカーブ・コントロール(YCC)を含めた政策手段の活用の仕方を決めていきたい」と述べるにとどめた。
(和田崇彦)