21日、広島市内で、フランスのマクロン大統領(右)と言葉を交わすウクライナのゼレンスキー大統領(AFP時事)
21日、広島市内で、フランスのマクロン大統領(右)と言葉を交わすウクライナのゼレンスキー大統領(AFP時事)

 ロシアの侵攻を受けるウクライナが反転攻勢の最終準備を整える中、ゼレンスキー大統領は21日、先進7カ国首脳会議(G7サミット)の開催地・広島から対ロシアで団結するよう国際社会に訴えた。ゼレンスキー氏の滞在中、ロシアは東部の激戦地バフムトの制圧を発表。戦況が重大局面を迎えるタイミングで、「戦時の大統領」は新興・途上国を含む各国首脳に支援を直接求め、米国製戦闘機供与の承認という成果も得た。

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 ◇非道徳性浮き彫り

 「悪と愚劣さに対処しない限り、世界が廃虚になってしまう」。ゼレンスキー氏はサミット会合に参加後、平和記念資料館(原爆資料館)を視察して記者会見に臨み、ウクライナの都市に砲爆撃を続けるロシアを厳しく批判した。

 兵力の損耗が伝えられるロシアは、核兵器使用も排除しない構えをちらつかせて威嚇を続ける。被爆地・広島からの発信は、各国首脳との結束誇示に加え、ロシアの非道徳性を浮き彫りにする象徴的機会となった。
 政府機を提供して移動を支援したフランスのマクロン大統領は、到着したゼレンスキー氏を「あなたはゲームチェンジャー(大変革をもたらす人)になり得る」と歓迎。同氏のサミット参加が、ウクライナ支援を後押しすることに期待を示した。

 ◇G7全首脳と会談

 ゼレンスキー氏には、ロシアと西側のいずれにもくみしない「グローバルサウス」と呼ばれる新興・途上国を引き寄せる狙いもあった。同氏は20日、グローバルサウスの代表格インドのモディ首相と会談し、ロシア軍撤退を柱とする和平案への支持を要請。SNSに掲載した動画で「インドが法に基づく国際秩序の復興に加わると確信している」と述べた。21日にはインドネシアのジョコ大統領とも会った。
 G7首脳との間では、欧米による武器支援の継続・強化が大きな焦点となった。ゼレンスキー氏は広島滞在中にG7首脳全員と会談し、バイデン米大統領、スナク英首相らと米国製戦闘機F16の供与を巡り協議。米政府は供与を容認する方針を表明し、欧米による「戦闘機連合」形成へ道筋を付けた。

 ◇ロシアに余力か

 存在感をアピールしたゼレンスキー氏だが、要衝奪取を宣伝するロシアとの戦いの先行きは見通せない。モディ氏はゼレンスキー氏との会談後、「対話と外交への明白な支持を伝えた」と明かし、領土奪還まで戦闘を継続すると公言するゼレンスキー氏との温度差をうかがわせた。ゼレンスキー氏は、ブラジルのルラ大統領とは「スケジュールが厳しかった」ため、会わずに終わった。
 戦闘機に関しても、ウクライナ軍が運用できるようになるまで時間を要し、反転攻勢に間に合わない公算が大きい。バフムト陥落が事実なら、ロシア軍がウクライナの拠点を攻撃できる力をまだ残している現状を示したことになる。