[東京 25日 ロイター] – 日銀の植田和男総裁は25日、ロイターなど報道各社のインタビューで、将来イールドカーブ・コントロール(YCC)を修正する場合には、誘導対象を10年金利から5年金利に短期化することも1つのオプションだと述べた。ただ、実現可能性については明言しなかった。YCCを含め、政策を修正するかどうかは効果と副作用を丁寧に検討した上で判断していくと改めて述べた。

植田総裁は、基調的な物価上昇率の見極めに当たっては、GDPギャップやインフレ期待など基調的な物価上昇率の構成要素をよく見極めた上で、さまざまなヒアリング情報も加味して判断していくと説明。少しずつ基調的な物価上昇率が上がってきていることは「事実」とする一方、「持続的・安定的2%の達成にはまだ届いていない」とした。

生鮮食品を除く消費者物価指数(コアCPI)の前年同月比の伸び率が目標の2%を上回る状況は1年を超えた。植田総裁は、物価高の起点となった海外での原燃料価格の上昇は収まり始めており、全体のインフレ率も今後下がっていくという見通しの下に緩和を維持していると話した。

「あまり急いで引き締めをしてしまうと、自然と(物価が)下がっていくところにさらに引き締め効果が加わっていくので、インフレ率が大きく下がっていくだけではなく、雇用等に大きなマイナスの影響が及ぶ」とし「そのことを懸念して緩和を維持している」と語った。今後、見通しの修正が必要になれば「速やかに行動したい」とも述べた。

主なやり取りは次の通り。

――持続的・安定的な物価目標の達成が近づきつつあるように見えるが、達成をどのような指標で判断するのか。

「基調的な物価の上昇率というのは、文字通り言えば恐らくヘッドラインのインフレ率から一時的と思われる変動分を除いたものという定義だろう。普通はエネルギー部分を除いたり、食料の一部または食料全てを除いたりして、残りの部分を見れば分かるというのが過去多くの場合に取られてきた手法。ただ、今回は日本だけでなく他国でも、通常コアと言われる指標を作ってもまだ一時的な部分が残っているのではないかとの気持ちを多くの当局者が持っており、悩んでいる状況ではないか」

「基調的な物価の上昇率を決める構成要素、GDPギャップ、賃金、インフレ期待等をよく見て、さらにいろいろなヒアリング情報を加味して判断していくことになるだろう。いつからかということは難しいが、少しずつそれが上がってきていることは事実。ただ、持続的・安定的2%の達成にはまだ届いていない」

――日経平均株価が3万円を超えた。

「株価の動きや水準について具体的にコメントすることは控えたい。このところ日本経済が堅調な動きを続け、企業収益もそこそこ良い状態が続くと予想されていることが株価に反映されているのだろう。市場動向は直接・間接的に経済の判断に影響するので、モニターしつつ経済の判断を誤らないようにしたい」

――金融緩和を続けながらYCCの修正・撤廃はどこまで可能か。

「YCCを含め政策の継続・修正等については、その政策の効果と副作用を丁寧に見つつ判断する。効果と副作用をにらんでそこのバランスに変化があれば、YCCの修正というのはあり得る。具体論については現段階ではコメントを差し控えたい」

――2021年3月の政策点検では、経済活動に最も影響を及ぼすのは短中期金利と整理した。緩和環境を維持しつつ、誘導対象の金利を10年金利からより短期の金利に変更する可能性は。

「10年金利をコントロールしていても、イールドカーブがきれいな形をしていれば5年のところも低位安定した位置にあり、金融緩和の効果が及ぶということはもちろんある。なので5年のところが強い影響を及ぼすからと言って10年ではだめだ、ということでは必ずしもない」

「その上で、10年金利をコントロールすることの副作用を重く見て5年金利ターゲットに移る可能性があるかという質問だろうが、一般論で申し訳ないが、仮にYCCを将来修正するときにはいろいろなやり方がある。その1つとしておっしゃったことがオプションとして入ってくることはあり得る。ただ必ずそうなるとか、どれくらいの可能性で、あるいはどういう状況でそれが望ましいと考えるか、という点については現段階ではコメントを控えたい」

――1年から1年半程度実施する政策レビューの期限が近づくにつれて、市場の政策変更期待が高まると考えるが、どうコントロールしていくか。

「多角的レビューは特定の政策変更や政策運営の見直しを念頭に置いて実施するものではない。1年や1年半程度実施するレビューを終えるまで政策見直しをしないということでもない。必要に応じてその間も政策を変更したり、実践していくことはあり得る。この点については今後も繰り返し、丁寧な説明を続けていきたい」

「レビューではさまざまなアンケートから始まって、日ごろ実施している金融経済懇談会でいろいろな地域の意見を吸い上げたり、あるいは学者・有識者を呼んでワークショップを行うことも考えている。その際に、我田引水にならないよう公平な人選、客観性に配慮したものになるように努めたい」

――15日の政府の経済財政諮問会議で米プリンストン大の清滝信宏教授がインフレ率が1―2%に定着すれば緩和を解除することが望ましいとの考えを示した。

「日銀は2013年から2%目標でやってきているし、足元で良い芽も少しずつ出てきている。インフレ目標はそう簡単に変えるべきものではない。2%目標ということで進んでいきたい」

「当日の会議で清滝教授は目標インフレ率が2%なのか1から2%なのかは別にしても、資産価格が上がりすぎてその後破裂してしまうバブル期のようなリスクも考えてやや早めに金融緩和を解除すべきだという意見だったと覚えている。一方で、ほかの多くの参加者はむしろ粘り強く緩和を続けるべきだという意見だった。両方の見解をよく考えた上で、今後の判断を誤らないようにしていくという姿勢を貫きたい」

――CPIの伸び率が目標の2%を超える状況が続いている。物価目標達成まで、これ以上「待つコスト」を誰がどう負担するのか。

「足元、インフレ率が目標の2%を超える状況がしばらく続いている。しかも、それは食料やエネルギーのところにかなり集中している面があるので、利用する国民全員に大きな負担になっていることは十分認識している」

「ただ、それがずっと続くと考えているのではなく、物価高の起点となった海外での原燃料価格の上昇は収まり始めている。全体のインフレ率も今後下がっていくという見通しの下に緩和を維持している。あまり急いで引き締めをしてしまうと、自然と下がっていくところにさらに引き締め効果が加わっていくので、インフレ率が大きく下がっていくだけではなく、雇用等に大きなマイナスの影響が及ぶ。そのことを懸念して緩和を維持している」

「見通しが誤っている可能性もゼロではない。見通しの修正が必要になる、という判断に達した場合には速やかに行動したい」

(和田崇彦、木原麗花 編集:橋本浩)