[東京 31日 ロイター] – 日銀の植田和男総裁は31日、日銀・金融研究所が主催する「国際コンファランス」の開会あいさつで、インフレ動向や経済環境の変化に言及し、新型コロナウイルス感染症への対応で公的部門・民間部門で負債水準が高まっていることや地政学リスクが強まっていることにより「既にlow for long(長期的な低金利環境)とは異なる新しい常態に移行しているという可能性も一概に否定することは難しいように思う」と述べた。

植田総裁は、日本も2度のオイルショックに見舞われた1970年代の高インフレ期の後にGreat Moderation(大いなる安定)の時代があり、その後、世界金融危機や長期的な低金利環境(low for long)の時代が続いたと説明。

現在は高水準にあるインフレがやがて落ち着き低金利の時代がまだ続くとの見方と、人々の物価観などの変遷により従来の低金利の時代からは変わっていくとの見方もあるとした。

長期的な低金利環境の下で打ち出された非伝統的金融政策については「実践の積み重ねの少なさや効果測定におけるデータ制約といった課題があり、今後のさらなる理論構築・検証が求められる」と指摘。政策手段の高度化、多様化により、従来よりも一段と丁寧な対外的コミュニケーションが求められるようになっていると述べた。こうした問題意識は、4月の金融政策決定会合で実施を決めた金融緩和政策の多角的レビューにも通じると説明した。

<現在の高インフレ、需要・供給双方が作用>

植田総裁は70年代の物価高騰の教訓として、インフレの原因を把握することの重要性を指摘した。需要要因によるインフレに対しては、金融引き締めで過度な需要を抑えインフレを抑制することが望ましいが、供給要因によるインフレの場合には「景気面では引き締め政策は採りたくない一方、インフレを放置するわけにもいかないというジレンマに直面する中で、難しい政策のかじ取りが迫られることになる」と述べた。

植田総裁は現在の世界的なインフレの背景として、資源価格の上昇、労働供給不足、サプライチェーンの混乱などの供給要因に加えて、拡張的な財政・金融政策の効果や新型コロナウイルス感染症拡大後のペントアップ需要の増加も影響している可能性が指摘されているとした。いずれの要因もタイムラグを伴って物価に作用していると考えられることから、物価は「さまざまな指標を丁寧に分析し、基調を見極めていくことが非常に重要だ」と語った。

国際コンファランスは毎年、学者や海外の中央銀行当局者などが参加し開催され、今年は31日から6月1日までの予定。植田総裁のあいさつは英語で行われた。

(和田崇彦 編集:田中志保)