[東京 27日 ロイター] – 半導体素材大手JSRの買収を決めた産業革新投資機構(JIC)の100%子会社、JICキャピタル(JICC)の池内省五社長はロイターのインタビューに応じ、買収完了後に業界再編の検討を開始する考えを明らかにした。JSRを核として再編を進めるなど様々な選択肢が考えられるとした。再編を通じて国内産業の競争力を高めるのがJICの使命だとし、候補として化学、自動車部品、ヘルスケアなどを挙げた。
池内社長は、国内勢が独占しつつも互いにシェアを奪い合う半導体素材業界の国際競争力を引き上げる必要性を指摘。今回のJSR買収が完了したら、すぐに再編の検討を開始するとした。半導体関連産業の競争力支援を重点分野と位置付けているとし、「案件掘り起しは常に行っている。半導体関連産業のディールは積極的に取り組みたい」と語った。
再編の手法は選択肢が「幅広いと思う」とした上で、「JSRを核に業界再編を起こしていくことで、半導体素材メーカーの国際競争力を引き上げていけると思っている」と述べた。半導体製造の前工程向け素材を手掛けるメーカーや後工程の部材を作るメーカーなどと経営統合する案を一例として挙げ、「専門性が高く、ドミナント(独占的)のポジションが取れるものがいくつかあると推定している」と話した。
一方、「実際にそこの企業のトップの考え、製品ベースでシナジー(相乗効果)が生み出せるのかなどは、具体的な検討のフェーズになってみないと分からないところがある」とも指摘。「独占禁止法に当たらない再編、独占的な地位を乱用するようなことにならないような統合のストーリーを作っていく必要はある。オプションとしてはいくつかあると思う」とも語った。
JICCは26日、子会社を通じて約1兆円でJSRを買収すると発表した。12月下旬をめどに株式公開買い付け(TOB)を開始する。
池内社長によると、JSRの経営陣と最初に面談したのは昨年11月中旬。このままでは半導体素材産業の国際競争力は失われるという危機感が強く、業界再編を進めなければならないという思いが「強烈に伝わってきた」という。国内産業の競争力向上というJICCの使命と合致したことから買収を決め、業界再編の必要性についても認識を共有したという。
JICは経産省が所管する投資ファンド。池内社長は経産省から投資案件で指示を受けることはないとしながらも、同省の投資方針、投資判断に沿って運営されているとした。経産省は2030年に日本で半導体を生産する企業の売上高を現在の約3倍の15兆円に引き上げるなど、半導体産業の競争力強化に乗り出している。
政府系ファンドが主導して業界再編を進めた例には、産業革新機構(現INCJ)が再生を支援したディスプレー産業があり、必ずしも成功したとは言えない状態にある。
池内社長はJSRの買収について「再生するのとはだいぶ違う。成長してる市場の中で相対的に競争力がある会社を買収して、さらに アドオンしていく」と強調。INCJから学び、投資決定前に計画通りに進まないリスクも可能な限り議論を尽くして精査したとした。
JICCは再編で産業競争力を底上げしうる業界を重点分野として定めている。池内社長は半導体素材以外に関心がある業界について、自動車部品、化学、ヘルスケアなどを挙げた。
例えば化学は企業が乱立し、製品が汎用化していていると説明。一定の再編が起きないと厳しい状態に追い込まれるとした上で、「再編で国際競争力を引き上げなければならないという機運が少し高まってきている。そういうところにフォーカスをして、もう少し再編を促せないか」と語った。
池内社長は、「JSRのようになるべく相対でディールができるものをもう少し増やしていきたい」と述べた。