ロシアの民間軍事会社ワグネルの創設者プリゴジン氏が、23日に反乱を起こして30日で1週間。プーチン政権下で前代未聞の事態は、ベラルーシのルカシェンコ大統領が仲裁して24日に収束した。しかし、中東・アフリカの紛争やウクライナ侵攻を通じて肥大化したワグネルの活動が、今後どうなるかは不透明。混乱を招いた政権の支持率にも影響が及ぶとみられている。
◇軍に協力者か
「プリゴジン氏に近いスロビキン上級大将が拘束された」。内外メディアは28日夜以降、国防省関係者らの話として次々と報道した。
スロビキン氏は、昨年10月~今年1月にウクライナ侵攻を統括する総司令官を務め、メディアで「ハルマゲドン(最終戦争)」の異名を取った。力を増すワグネルを国防省が管理下に置こうとするタイミングで、総司令官は制服組トップのゲラシモフ参謀総長に交代。それでもスロビキン氏は統括ナンバー2として残り、ワグネルの勢力も保たれた。
米メディアによると、スロビキン氏は反乱を前もって把握していたとされる。連邦保安局(FSB)も事前に察知し、プリゴジン氏が敵視するショイグ国防相らがワグネルに拘束される事態には至らなかった。スロビキン氏が通報したかどうかは不明で、取り調べでは反乱への協力の有無ではなく、プリゴジン氏との近さが問題視されたという。
ワグネルが蜂起した南部ロストフナドヌーで戦闘に至らず、南部軍管区司令部がいとも簡単に占拠されたことから、ロシア軍内部に協力者がいたという見方がある。ウクライナで苦戦が続く中、プリゴジン氏に限らず保守派を中心に軍上層部への不満が高まっており、反乱の背景には国防省内の権力闘争も透けて見える。
◇市民と触れ合い
「軍事クーデターではない」。反乱中、拘束を警告するFSBにプリゴジン氏は反論。政権に対する挑戦ではなく、あくまでも国防省への抗議だと主張した。だが、軍を統制できていないとすれば、最終的には最高司令官であるプーチン大統領の責任となり、政権の求心力に疑問符が付くことになる。
独立系メディア「メドゥーザ」によると、世論調査機関の発表で、プーチン氏の支持率は反乱前後とも約8割の高水準を維持。だが、クレムリン(大統領府)は「9~14ポイント低下した」可能性があるという内部データを関係者に通知した。今年9月に統一地方選、来年に大統領選を控えるプーチン氏にとっては無視できない数字だ。
プーチン氏はこのところ、国営メディアを通じた露出を増やしている。27日に軍・治安機関の2500人以上を集めて演説し、掌握をアピールした。28日には反乱後初の地方視察として、南部ダゲスタン共和国を訪問。厳しい警護よりも、市民との握手や写真撮影を優先させ、国民の支持つなぎ止めに余念がない。