1日施行の中国の改正反スパイ法について、阿古智子・東大教授は時事通信のインタビューで「摘発対象となる基準は政治や経済情勢で変わり、外部から見えない」と指摘し、習近平体制による恣意(しい)的な運用に懸念を示した。インタビューの要旨は次の通り。
中国、「スパイ」摘発を強化 1日に改正法施行―定義拡大、通報奨励
―改正反スパイ法の特徴は。
反スパイ法の目的は中国の「国家安全」、つまり中国共産党政権の維持にある。政治、科学技術、文化、経済など幅広い面で「国家安全」のための政策を重視している。
改正法では摘発対象が拡大される。例えばスパイ組織に参加した人だけではなく、組織に頼って生活する人も対象だ。情報管理を強化するため、文書、データの窃取や違法な提供、情報インフラへの攻撃も対象に追加された。
―問題点は。
摘発対象の定義があいまいで、恣意的に運用できる法であり、どんな状況でも拘束される可能性がある。政権にとって不利だと判断される情報の基準は、その時々の政治や経済情勢の影響を受けて変わるだろう。今まで問題とされていなかったことが、急に摘発対象になり得る。判断基準は共産党の論理の中だけで決まり、外部からは見えない。
いったんスパイ容疑をかけられると、有無を言わさず連行され、さまざまな情報を提供させられる。スパイ行為をやったかどうかよりも、その人が持つ情報の獲得を目的とする拘束もあるだろう。一方で、中国との関わりを全て制限することはできない。情報関連機器のセキュリティー対策を高めるなど、自らリスク管理することが必要だ。
―社会活動が萎縮し、中国経済に影響しないか。
経済への影響は非常に大きいが、政権にとっては共産党体制の安定維持が最も重要だ。中国の人々が海外とつながり、自由に考えて行動に移すとなれば、政権にとっては大変なことであり、情報流入を制限するしかない。
―日本政府の対応は。
昔の日本なら経済力が強かったので、それだけで中国にある程度重視してもらえたかもしれない。しかし、人工知能(AI)、ビッグデータが発達した時代となり、国として情報管理できる中国に太刀打ちするのは困難だ。
日本には個人情報を保護する法律や、国家権力に縛りをかける憲法がある。「法の支配を重んじる国」という理念を中国に明示するべきだ。欧米が中国に制裁を科したから追随するというのでは、全く分かってもらえない。
(中国が非公式に設置する)「在外警察署」によって被害を受けたという中国人の知り合いがいるが、日本の警察に相談しても解決しないケースがある。日本国内で起きている越境行為には、被害者が外国人であっても断固とした姿勢で対応するべきだ。