米連邦最高裁が歴史的な判例を覆す「保守寄り」の判決を次々に下し、米社会に衝撃を広げている。大学入学選考で黒人らを優遇するアファーマティブ・アクション(積極的差別是正措置)の否定など、一連の判断は社会の慣行を変えるインパクトを持つ。トランプ前政権下で保守派の判事が増えたことを背景に司法の政治化が進み、保守、リベラルの対立と社会の分断を一層深めている。
大学入試の人種優遇「違憲」 多様性確保に転換点―米連邦最高裁
◇怒るバイデン氏
「これは普通の裁判所ではない」。バイデン大統領は6月29日、アファーマティブ・アクションを「違憲」とした判決に憤りをあらわにした。アファーマティブ・アクションは1961年に民主党政権が導入して以来、企業の採用活動にも反映されるなど社会に浸透していた。
最高裁は続く30日の判決で、同性婚カップルからの依頼を宗教上の理由で拒んだウェブデザイナーを支持。ニューヨーク・タイムズ紙は「信教の自由と対立する時、LGBT(性的少数者など)の権利が法的に弱いことを示唆した」と懸念を示した。
さらに同日、最高裁は、バイデン氏が低・中所得者向けに導入した学生ローン減免策について、大統領権限の逸脱を理由に認めないと決定。再選を目指す2024年大統領選に向けた「目玉」の一つだっただけに、バイデン氏は「最高裁は憲法解釈を誤っている」と怒りをぶちまけた。当初とは別の法律を根拠とする新たな行政措置を追求し、司法判断に対抗する構えだ。
◇大統領選へ論争激化
9人で構成する最高裁は、トランプ前大統領が保守系判事3人を送り込んだ結果、保守系6人、リベラル系3人の陣容となった。その「右傾化」は昨年、女性が人工妊娠中絶手術を受ける憲法上の権利を否定する判決を下したことで、一気に顕在化した。
野党・共和党は一連の司法判断を歓迎している。トランプ氏はアファーマティブ・アクションの違憲判決を「誰もが待ち望んでいた」と絶賛。少数派優遇により「逆差別」を感じている白人有権者の鬱屈(うっくつ)を代弁した。
24年大統領選に出馬しているペンス前副大統領は「3人の(保守派)判事の任命に一役買い、光栄だ」とツイートし、トランプ政権下で果たした役割をアピール。自身が大統領になれば、さらに保守系判事を増やすと約束した。
ただ、大統領選への影響を見据えると、一連の判断が共和党に有利に働くとは限らない。中絶の権利見直しの判決は女性やリベラル層の怒りを買い、昨年11月の中間選挙で女性の権利保護を掲げた民主党を利する結果となったからだ。
民主党は「共和党右派に支配された最高裁」(シューマー上院院内総務)と両者をセットで批判。人種的・性的少数派の権利擁護を訴え、無党派層の取り込みや、よりリベラルな傾向がある女性・若者票のてこ入れに取り掛かっている。最高裁の在り方は、大統領選の大きなテーマになりそうだ。