[東京 28日 ロイター] – 半導体素材大手JSRのエリック・ジョンソン社長はロイターとのインタビューで、外国人株主が過半を占める中で経営が制約されていたことが非上場化を決めた理由の1つだと明らかにした。様々な意見を十分に聞くことなどに時間がかかり、戦略的なM&A(企業の合併・買収)を迅速に進めるのが難しくなると考えたという。
フォトレジスト(感光材)で世界シェア3割を握るJSRは6月、1兆円で官民ファンドの産業革新投資機構(JIC)傘下に入ることを決定した。非上場化で短期的な業績に左右されない体制へ移行し、構造改革や業界再編を進めることで両社は認識を共有したと説明していたが、理由として外国人株主との関係に言及したのは初めて。
ジョンソン社長は「業績が好調なことから質の高い投資家を引き寄せてきた」とし、「事業を熟知した彼らの意見は尊重する必要がある」と強調。一方で、「投資家からの様々な期待や意見に対処しなくてはならない」と述べた。
JSR株は2023年3月末時点で54%を外国人が保有している。ジョンソン社長は、保有比率に関わらず「異なる意見の調整に割くエネルギーは小さくない」とした上で、「公開企業のCEO(最高経営責任者)にとって負担だ」と語った。「日本国内で戦略的なM&Aを進めるという文脈の中では特に厳しい」と述べた。
ジョンソン社長は、これまでの株主構成が買収提案先の不安を醸成していたとも指摘。初期的な対話はできるものの議論が発展することはなかったとし、「JICの傘下であれば踏み込んだ会話が出来るようになる」と話した。
JSRの株主には、9.25%の株式を保有し(21年時点)、社外取締役も派遣する米投資ファンド、バリューアクト・キャピタルも名を連ねる。事情を知る関係者2人によると、「物言う株主」として知られるバリューアクトが経営に介入してくることを嫌ったことも非上場化の背景にあるという。
しかし、ジョンソン社長はこれを否定。「特定の株主から特定のプレッシャーを感じているわけではなく、そのプレッシャーを排除したいと考えているわけではない」と語った。その上で、「社外取締役会は利害関係に関わらず意見し、経営陣が会社のために最善の決定を下すよう尽力していた」と役割を評価した。
バリューアクトはロイターの取材にコメントを控えた。バリューアクトは6月の非上場化発表後、「JSR取締役会の(株式売却の)推奨に従い、支援する」との声明を出している。
日本は半導体供給網の中で素材部分に強みを持つものの、個々の企業規模が小さく、いずれ国際競争力を失う可能性が指摘されてきた。JSRは非上場化した上で業界再編を主導し、規模を拡大する方針を示している。
再編効果には懐疑的な見方もある。シティグループ証券の西山祐太アナリストは「JSRが技術を独占すれば、同社の競争力向上につながるが、半導体素材産業全体の競争力が向上するわけではない」と指摘。
ゴールドマン・サックス証券の池田篤アナリストは「素材業界は、すでに競争力のある会社が多く、統合によるシナジーが見出しづらい。ただ、開発費や検査装置の共有化などの側面ではコスト削減につながる」とみる。
これに対しジョンソン社長は、世界で戦うには「規模と効率性」が重要だとし、海外の競合の間では速いペースで統合が進んで競争力を高めている例が多くあると説明。国内には規模の小さな企業が多く、「現状がいつまでも続くと考えるのは間違っている」と語った。
JICは、JSRを核に業界再編を起こし国際競争力を引き上げる。買収完了後に業界再編を検討するとしている。
*インタビューは27日に実施しました。
(浦中美穂、Sam Nussey、山崎牧子 編集:久保信博)